笛吹き姫へのラブレター
7日間なんて大したことないと思ってたけど、甘かった。
(やばい。これ”精神と時の部屋”てやつ……)
宮様に泣きついて、もっと短くしてもらうべきだったんじゃ――。
一日目でもう弱気になってるなんて、誰にも秘密だ。
誰にも会わない。
風が葉っぱを揺らす音と、鳥の声しか聞こえない。
知らない部屋にひとりっきりの時間は、じわじわと私の心を変えていく。
自分が吹く笛の音だって、いつもと違って聴こえる。
風の音にびくっとしたり、夕陽がやけに綺麗だったり。
そんな自分に時々ひとり笑ってしまう。
でも文が、毎日誰かから届いた。
文のありがたさをこんなに感じたことなんてなかった。
一通の文を何度も何度も読み返す。
お返事を書いて笛を吹いて、また読み返して笛を吹く。
そんな毎日を送った。
毎日百万回くらい「ありがとう」って心の中で言いながら。
***
やっほー小霧ちゃん、元気?
噂聞いたよ~。潔斎なんて大変だね!でも賀茂のまつり、小霧ちゃんが出るなんてすっごく楽しみ!絶対見に行くからねー!
またお文書くよ!がんばって!
あやめ♡
小霧ちゃん、元気ですか
賀茂のまつりのこと聞きました。最近誰からも小霧ちゃんの噂をよく聞いて、誇らしいような心配なような気持ちでいたら、びっくりしました。
でも花の牛車に乗って笛を吹く小霧ちゃん、素敵でしょうね。想像するとかわいくって、うれしくなってしまいます。
まつりの日が今から待ち遠しいわ。
ずっと遠くから応援しています。
あなたの透子より
小霧へ
母上から話を聞いたよ。笛を握って笑う小さな君が思い出されます。あの頃からどこか他とは違う子だと思っていたけど、まさかこんなお役目をいただくことになるとは、夢にも思わなかったな。
こんな身だけど、賀茂のまつりは見に行くつもりです。
準備もいろいろと大変だろうけど、体に気を付けて。遠くから祈っています。
笛吹き姫の師、久継
小霧へ
そちらの生活はどうですか。皆さんに迷惑をかけていませんか。良くしてもらっていますか。
あなたの笛が神様にまで届く日が来るなんて、まだ現実のこととは信じられません。
美しい音を届けられるよう心を込めて精進なさってくださいね。
何か足りないものがあれば言ってください。いつもあなたの幸せを願っています。
母
姉さん、元気にしてる?
頼まれてた紙、まとめたけどこれで大丈夫かな。また足りなければ連絡ちょうだい。
親房様が、泣いてないかなって心配してたよ。がんばってね。
尚継
小霧へ
そちらはどうですか。
せっかくの機会だから、特別な文を書くことにした。
小霧にひとつ隠していたことがある。
同封する。気分転換したい時にでも見て。
秋成
小霧
戻る日を楽しみにしてる
実雅
***
秋成様の文に同封されていたのはほんの少し色の変わった紙だった。
開いて見るとそれは、いつか見た紫陽花の宴の楽譜で――。
記憶の中から音と光の洪水があっという間にあふれ出し、涙になってこぼれ落ちた。
「あっきーのバカ。よけいに寂しくなっちゃったじゃないか」
私は毎日みんなの手紙を抱きしめて眠った。
少しでも早く朝が来るように。




