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平安姫に転生したら一夫多妻のはずの夫に囲われています|空蝉奇譚  作者: 藤江りこ
第三章

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罰ゲームな宴に参戦します

「どうしよう。宴なんて……」

「何度も出てるでしょ?」


文には、梅壺で小さな宴を開くからゲストとして奏上するようにとあった。


実雅様はいつもと変わらず脇息にもたれ、ゆったりくつろいでいる。

今回もきっと知ってたんだ。


(いい加減、事前に教えてくれてもよくない?)


思わず抗議の目で見るとおかしそうに笑った。

笑い事じゃないんですけど。


「びっくりするから教えてほしいです」

「あはは。驚いてるのがかわいくて」


く……っ。

そんな言葉で騙されちゃダメ!


「かわいいとか関係ないです!」

「先に知っちゃうと、文が届くまで憂鬱にならない?」

「……なる、かも――」

「ね」


(そうかもしれないけど、でもさあ…!)


「内裏の宴なんて初めてで……」

「それほど変わらないよ」

「絶対うそだ――」

「大丈夫だよ。一人じゃないでしょ?」


一人じゃない?そうなの!?


「あっきーとちかと、透子様も一緒?」

「そのはずだけど」


久しぶりのメンバーと一緒なんてワクワクしてしまう。

最近秋成様たちも何かと忙しくって、なかなか会えないんだよね。


「尚も俺もいる」

「ほんと?!」


またぱぁっとなった私を見て、彼はクスクス笑っている。


「知らなくって良かったでしょ?」


(サプライズってやつ?)


なんか言いくるめられてない?

でも楽しみでそんなことどうでも良くなってしまった。




数日後、打ち合わせをするからと呼び出され、参内した。


(内裏ってこんなにまぶしいとこだっけ?)


楽しみが待っていると思うとダンジョンじゃなくって遠足になるよね!


ウキウキしてたらいきなり宮様が登場した。

当日までの流れを説明してくれる。

もう一つサプライズがあった。


「梅壺様もご一緒に?」

「ああ。せっかくの腕前だからぜひ披露をという話になってね」


(うんうん。あんなに弾ける人なかなかいないからね)


ぜひ聴いてもらわないと。


「姫と一緒なら梅壺様も弾きやすいし、周りも納得するだろうから」


みんな絶対驚くよね。

梅壺様の琵琶を思い出してたら、聞いたことない単語が出てきた。


「”曲水の遊び”、ですか?」

「酒の入った盃を遣水(やりみず)に流して、自分のところに来るまでに歌を詠むんだよ」

「……」


なんだその罰ゲームみたいなの。

笛担当で良かった。


他人事と思って聞いていたら、次の瞬間、地獄に突き落とされた――。


「姫も一回は詠むようにね」

「……え」


私も和歌、詠むの?!


宮様がニヤリと笑う。


「姫の歌、楽しみにしてるよ」


やっぱり宮様のいる内裏はダンジョンだった……。






「え、おかしいな」

「ほんとおかしすぎます!」


私が人前で歌を詠むとか、あり得ない。大変なことになる。


(でも実雅様、知らなかったってこと?)


「そんなはずないんだけど……」


実雅様は、じっと何かを考え込んでる。

嫌な予感が――。


「まぁ用意しとくに越したことないな。いくつか作っとこうか」

「えっ、どういうこと?」


作る?いくつも?なんで?


「お題があるからね」

「お題?歌の?」

「うん。お題は当日にならないとわからない」

「え~!」


(いくつも用意したって外れる可能性があるってこと?)



実雅様が、過去数年のデータを参考に山を張ったお題から、歌を用意してくれた。

本番までに何が何でも覚えなきゃ。

なのに覚えるそばから忘れていく。

前世のテスト前を思い出す。


(歌、向いてない……)




泣きたい。






「どした小霧」

「ちょっと今私に話しかけないで」


梅壺の庭での宴が始まる前。

実雅様が作ってくれた和歌をぶつぶつ暗記してると、様子のおかしい私に気付いて親房様が話しかけてきた。


「お?珍しく緊張してんのか?」


秋成様と透子様は不思議そうに見ている。


「だって!せっかく覚えた歌が出てっちゃうじゃん……!」

「何の話だ?」

「曲水の遊びって大急ぎで歌を用意しなくちゃいけないんだよ?!」

「いや、知ってるけど……。俺ら関係なくね?」


なんで――?!

のんきな親房様の顔を見て、絶望がこみ上げてきた。


(ひょっとしてチーム笛吹き姫の代表だから、私だけ吊るし上げ的な……?)


和歌の暗記が上手くできないせいか、発想が後ろ向きになってる。


「だって宮様が……!」

「?」

「そろそろ管弦のご用意を——」


声がかかった。




梅壺の庭にこしらえた遣水に、上流からぷかぷか盃が流されていく。

遣水に沿って座った女房たちが、さらさらと歌を書き付ける。


優雅に見えるけど、ハイパー高難度な技が繰り広げられてる場面だ。

あの人たち、自分のやってることわかってるのかな?


(どのタイミングであそこへ座らされるの……?)


今か今かとハラハラしながら眺めてたら、遣水の周りには誰もいなくなった。


あれ?

歌を詠む時間、終わった?


管弦を奏上するように言われる。


(ちかの言う通り、私は詠まなくていい……?)


宮様得意の冗談だったんだ!

もう!


今ならいつもより断然上手く吹けそうな気がする。

歌から解放された私は、無敵の気分だ。

いそいそと笛を構える。



秋成様が笙を構えて息を吸う。

音が輝く空間に、梅壺様の琵琶が深い響きを刻んでいく。

月にかかる雲のように、葉に降り注ぐ雨粒のように。

私は笛で、梅壺に風を送った。





宴は二次会になっていて、あちこちから歌声や笑い声、楽の音なんかも聞こえてくる。

私は宴席から少し離れた几帳の陰で透子様とヒソヒソお喋りしていた。


「おや笛吹き姫。こんなところに」

「宮様……」


見つかってしまった。

逃げ切ったと思ったのに。


宮様が盃を片手にニヤリと笑う。

透子様はさっと顔を背ける。

大事な女神をかばうようにして、私も扇で顔を隠しながら向き直った。


「姫の歌をまだ聞かせてもらってませんよ」

「歌……?」


もうそんなこと、すっかり忘れてたのに。


(てか、近いな)


酔っぱらってるのか、宮様はじりじり近づいてくる。


あれ。

この人、こんな顔?


初めて間近に見る宮様は、彫刻のような端正な顔立ちだった。

灰色のような薄い瞳が不思議な色に光っている。

綺麗なのに……笑顔の下のからかいが透けて見えて、ほんとやな感じ。


「お題は……そうですね」


目を細めて私を見下ろす。

睫毛なっがー。


ぼんやり見てたら、思いもよらないことを言い出した。


「“おしどり”でいかがです」

「“おしどり”……?」


はぁ?


季節もシチュエーションも無視って、そんなのあり?

ぜんぜん無理じゃん。


(実雅様ごめんね……せっかくの歌が)


即興で気の利いたおしどりの和歌を詠むようなスキル、私にはない。


なんにも思いつかない。

考えるのも面倒で、黙って盃を受けようとしたら、後ろから袖を引かれた。


「小霧ちゃん」

「おや、山吹の御方ですね。――箏、惚れ惚れしましたよ」


宮様がちょっと色っぽい空気を出す。

が、次の瞬間あざ笑うみたいに言った。


「――お手伝いはご法度ですからね」


この男、いま透子様に変な視線送ったよね?

私の女神に失礼だ。


ひったくるように盃を受け取り、怒りに任せて飲み干した——。





その後のことはよく覚えていない。

用意していた歌五首は朗々と謳い上げたらしいんだけど。





実雅様に連れられて帰った。

実雅様はまた怒ってて、私はふにゃふにゃだった。

ちかとあっきーと、尚もいて。

梅壺様と透子様がおろおろしてた。


みんながいて、あったかくって嬉しくって。


私がずっと笑ってたからかな。

実雅様も最後はしかたないなって笑ってた。



次の日のことなんてこれっぽっちも考えずに、私はただふわふわと眠りについた。








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