気付けばいつも手のひらの上です。
「お寺で”術”使わなかった?」
「使ってません!」
(くっ……まだ言う?)
お寺から邸に戻ると実雅様が来ていて、報告しようとした瞬間、彼が言った。
私の顔を見て一瞬ほっとしたように見えたのに。
気のせいだったのかな。
「――どうだった?」
いつも通りの脇息専属モデルの風格でゆったり私に尋ねた。
「すっっっごく楽しくって。実雅様のおかげです」
実は私は親兄弟と離れて外出するのが初めてだった。
心配した実雅様が、腕の立つ伴や寺への心づけまで手配してくれたのだ。
平安ルールがイマイチ掴み切れてなくって不安だったんだよね。
(さすが”ネゴ男”だ……)
心づけの効果かはわからないけど、寺では丁寧にもてなしてもらえて、私も女房も何不自由なく楽しめた。
「良かったね」
いつもと変わらない様子になんだかぎゅうっとなる。
「あのね、すごかったんです……!」
「うん?」
少し茶色い優しい瞳がこちらを見ている。
魔法が発動してる気がするけど、なんだか今はそれどころじゃない。私は一気にまくしたてた。
「シーンとしたところに鉦がぅわんわんわんって響いてね。ふわ~って篳篥と笙がね、出てくるんです。その後ずん!て太鼓がお腹に響いて、声明が”おーっ”て聞こえたと思ったらお香のにおいがして。もう全身が大忙しなんです……!あと冷たい空気に、時々温い篝火の熱気がね――」
「うん」
自分でも何を言ってるかわからない自覚はあるけど、上手く言えない。
だってあんな経験初めてだった。
実雅様はクスクス笑いながら聞いている。
「で、あやめ様がね、浄土が見える!って」
目の前で両手のひらを組んで、あやめ様の様子を真似して見せた。
「『小霧ちゃん、見えるでしょう?!』って言うんです」
ギラギラしたあやめ様を思い出して、私も目をギラギラさせてみる。
(できてるかな)
そんな自分がおかしくなって笑ってしまった。
「あはは、私も一瞬見えたかもしれません」
「浄土が?すごいね」
「ふふ。今のあやめ様の真似、似てました――」
(あれ、なんで?)
ニコニコした彼が、すぐ真上から私を見下ろしているのに気付いて我に返った。
いつの間にか実雅様とくっついている。
まずいと思い、目を泳がせ咳払いをしつつちょっと距離を取ろうとしてみる。
「あの。すみません。興奮してしまって。その……」
恥ずかしくってしどろもどろになる。
「実雅様のおかげで本当に楽しかったので、何としても全力でお礼を言わないとと思って……」
体を離そうとするのに、がっちりホールドされ外れないどころか、耳元でささやきかけてきた。
耳がくすぐったい。
「うん、お礼は?」
「……っ」
チャラい。
なんでこんなチャラいんだ。
思わず半目になって、腕で押しやるのに、ますますくっついてくる。
ずーっと笑っているのが癪に障るったらない。
(またからかって……)
でも、単純な私は実雅様の聞き上手に乗せられて、声明ライブの一部始終をたっぷり話してしまったのだった。
何かを確認しなきゃと思ってたのに。
彼がただ楽しそうに笑ってるから、そんなことどうでもよくなってしまった。
だって楽しいのは邪魔しちゃいけないよね。
でも、こうやって彼の腕の中にいていいんだったっけ?
気付いたら、そればっかり考えてた。




