夫の奥さんってどんな人?
「あなたが小霧ちゃん!!!」
やたらといい匂いのする牛車に揺られて着いた先で、陽キャな美女が出迎えてくれた。
陽の者国の代表か、中枢人物に違いない。
「会いたかったのよ~!やだ、思った通りの美人さん!肌つやっつや!顔ちっさ!目キレイ!わ〜〜すっごい好み!!こりゃあいつも惚れるわけだ!突然呼びつけちゃったりしてごめんね。びっくりしたよね?ほんと、来てくれてありがとうねー!めちゃめちゃ嬉しい。車、大丈夫だった?うちの者、失礼なかったかな。他ならぬ小霧ちゃんのお迎えだから、車も張り切っちゃった♡伴も選りすぐりを付けたんだけどね。キレイ系で行くかガチムチ系で行くか迷ったんだぁ。小霧ちゃんはどっちが好み——」
(ちょ、これどうすれば……)
「いやほんと、あのネゴ男がお世話になってるよ〜。めんどくさくない?大丈夫? 」
(ネゴ男……?)
あれ、実雅様ってスパダリ枠じゃなかったっけ?
「ああ見えて結構繊細でしょ。うちの子たちも気使っちゃってさぁ。私、繊細ってちょっとよくわかんなくって、任せっきりにしちゃってほんとごめんね。こないだなんて——」
マシンガントークってこういうやつのこと言うんだ。
「あ、ごめんごめん。私早口で。貴族の娘がっていまだに親に言われるのよ」
「いえ……そんな」
(どうしよう、めっちゃいい人だ。……てか、私この人好きかも)
あやめ様は、丸顔にぱっちりした目、長いまつげ、ぽってりした唇のフェロモン系美女だった。
それにしても……。
実雅様の北の方なんだよね。
なんか……ちぐはぐ過ぎない?
(この二人がいったいどんな会話を……?アレか。スポーツだけはやけに息がぴったり合う的な大人の関係ってやつ……)
「私のことはあの人に何か聞いてる?」
「え。いえ……」
不謹慎なことを考えていたのを慌てて打ち消し、にっこり笑って見せた。
「肝心なこと言わないのは相変わらずみたいね。ほんとヘタレなんだから。気になっちゃうじゃんねぇ」
「ヘタレ……」
「あ、ごめん!!まだぜんぜん蜜月ってやつよね?もう喋らない!」
(もうちょっと"牽制”みたいなのあるかなって思ってたんだけど)
「二人には仲良くしてほしいと思ってるのよ?」
あやめ様は太陽のような笑顔でそう言った。
目の前の彼女は眩しいくらいに明るくて、牽制なんて微塵も感じさせない
「言いたかったのはそれだけ。わざわざ来てもらってごめんね?でもこういうのって文では伝わらないでしょ?」
ほんとその通りだ。
どんなに丁寧に説明されても、「北の方」っていう不安ばっかり大きくなってたに違いない。
「あの人に知られるとどんな邪魔が入るかわかんないから秘密にしてもらったんだけど……」
きっと実雅様の手強さを知り尽くしてるんだろう。
二人の間に一体どんな攻防が……。
「うーん。でもそろそろバレてるかな」
「え……」
「ま、いいでしょう!」
あやめ様はくるっとこっちへ向き直ってとびきりの笑顔で言った。
「ねぇねぇそんなことより小霧ちゃんのこと教えて。毎日何してるの?お裁縫?お箏?お歌?」
(私って笛だけが取り柄でなんてつまらない人間なんだ……)
このびっくり箱は、いったい何層になってるんだろう。
「っもうね、ほんっっっとに尊いの!!生臭さなんてゼロなのよ!」
さっきからあやめ様の推し活トークが止まらない。
「山の中のしーんとした空間でね、読経がね、お腹に響くの!もうゾクゾク~ってなって、浄土がうっすら見えるから!ほんと、ありがたさが半端ないのよ!物の怪だって絶対飛んでっちゃうんだから!」
あやめ様は、ひいきの寺にひいきの僧がいて、足しげく通っているらしい。
「小霧ちゃんにも一回聞いてほしい!絶っっ対感動するよ!」
前世の記憶があるだけに、私は読経や物の怪に対する考え方がちょっと人と違って——。
「そだ!ちゃんと楽も入ったりするよ!」
「え?」
つい食い気味に反応してしまった私を見て、あやめ様がにんまりと笑う。
「小霧ちゃんのツボはそこか~。管弦三昧って言ってたもんね。そかそか。じゃー、私と一緒にお寺にそれ聞きにいこ♡」
(あやめ様、陽の者国の実力者に違いない……)
あやめ様の眩しいほどの陽キャオーラを浴びた私は、放心した状態で帰宅した。
部屋でぼんやりしていると、実雅様がやってきた。
「どうだった?」
なにが?
「あやめに会ってきたんでしょう」
「――!」
(なんで知ってるの?)
あやめ様の「そろそろバレてる」発言と、文に書かれた「見てません」の文字が頭を過った。
「やっぱり見ました⁈ あの文」
「見てないよ。宛名も要件も書いてなかったでしょう?」
「見てるじゃん!」
「あはは、ごめんね。くちゃくちゃになってたから、つい何かなって」
(そうだよね。「こんにちは」って挨拶書いただけで……)
どうやって知ったんだろう。
まさか千里眼的なチートまで……?
実雅様はまだおかしそうに笑っている。何か隠してるに違いない。
何かが引っかかるけど、私の頭はあやめ様の残像でいっぱいだ。
「あまり聞くのは野暮かな。良くしてくれたでしょう?」
ようやく笑いを引っ込めた実雅様が優しく尋ねる。
「……はい。あの、すごかったです。あやめ様、眩しくて目がつぶれそうでした。いや、半分つぶれてるかも?」
陽の光の大量照射の副作用で、意識がどこかを彷徨ってるっぽい。まだあやめ様のとこにいるのかな?
心に浮かんでくる言葉を並べてみる。
「ははっ、“眩しくて”か。そうだね。びっくりしたでしょう」
「はい。でもあの、とてもいい方で。私、だいすきです」
「そう」
実雅様がすぐそばまで寄ってきて、くっついて腰を下ろした。
「俺は?」
「え?」
「だいすき?」
「えーと……」
「そんな迷うとこ?」
大げさに溜息をついて体を離す。
「あの、そういうことではなくてですね」
「うんうん」
脇息に肘をつき、私を眺めている。
(なんでこの人こんなに色っぽいんだろう。あやめ様も大人だった……)
同じ空間にいるのに別世界の住人に見えて、ぼんやり彼を見返した。
すっかり頭はキャパオーバーで、わけもなく話の先を急いだ。
「それで、あの、お寺に誘われたので、行ってこようかと」
「えぇ?」
実雅様がびっくりして顔を上げる。
「なんで今の流れでそうなるの」
「いや、あの、管弦があるって言われて、聴いてみたいな、と……」
「行けばいいんだけど、うん、ちょっと考えさせて」
「はい……?ありがとうございます」
何を考えるんだろうと私も考えようとするけど、やっぱり頭がうまく働かない。
「そんな風になっちゃうのに心配だね」
実雅様が小さく笑って私の手を取る。
(そんな風ってどんな風だろう。ふわふわするけど)
その後、手を握ったまま、あやめ様とのことを少し話してくれた。
あやめ様に会ってなかったらわからなかったと思うことばっかりだ。
ふわふわしたまま、まだ見ぬ寺に想いを馳せる。
木々を渡る風にざわめく葉擦れ、湿った土のにおい、昇る月。
低い読経の響きと管弦の音が重なる。
明かりに照らされ浮かび上がる誰かの姿が、音にまぎれて見えた気がした。
このお話、何度書いても作者まであやめ様のテンションにやられてしまって…。
実雅様まで、おかしいですよね。「びっくりしたでしょう?」ってお前の嫁だろ、って内心ツッコミながら書いてたんですけど。。
読者の方々はいかでしょうか。陽の者の光、大丈夫でした?
感想お聞かせいただけると嬉しいです。




