追跡
散らかった部屋を見回す。
彼と別れてこの家に戻ってきてから一度もちゃんとした掃除はしていない。
ちょっと掘り返せば、彼の私物が出てくる。
それを見つけたくなくて手をつけられないまま、すでに半年。
どっかで食べかけのお菓子とかがないか、心配だ。
元彼と別れて、実家に戻ってきた最初の一ヶ月の記憶は今でも曖昧だったりする。
どうやって、生きてきたのかわからなくなっていた。
一人じゃないことに慣れすぎて、彼のいなかった頃の自分が見えなかったのだ。
泣いていたことは覚えてるんだけどね。
家に引きこもってやっと、外に出たのは二ヶ月、経ってからだった。
金がなく、支払いは滞り自動車保険を強制的に解除された。
携帯はとめられ、タバコを買う金もなくなっていた。
車のローンは母が立て替えてもらうようになった。
とどめに以前、もっていたクレジットカードの支払残高が26万、残っていた。
いつまでも滞納し続け、無視し続けた結果、弁護士から手紙がきた。
さすがの私も驚いて、自分が如何にダメな人間か気づいた。
とりあえず、働かなければ。
なんでもいい。どうせ、やりたいこともないのだから。
そして、兄のバイトするキャバクラに入店した。
それから二ヶ月、必死に働いた。
週6でキャバクラへ行き、払えるものから払った。
クレジットカードの26万は交渉した結果、1年以内に分割で支払うということで落ち着いた。
キャバクラだとしても仕事をするということがどんなだったか思い出した。
人間に生まれた以上、避けて通れない「働く」ということを私はすっかり忘れていた。
自分のために生きるためにお金を稼ぐ。
それが普通なのに、私は忘れていた。
なぜなら、元彼といたころ私は彼のために働いていたから
忘れてしまっていた。
それはとても懐かしい感覚だった。