日常
満足できていない。
私はふと、思った。
それはいつもの素っ頓狂な私の脳がたたき出した言葉。
その言葉は本当に突然、出てくるがいつだって的を射ている。
なぜそう思ったのか。
別に今日は雨だから、とかではなくて
お財布にあと、500円しかないことでもなくて
タバコをやめられずにいるからでもないだろうな。
ましてや目の前のお客様があまりに優柔不断だからでもない。
ぐるぐる回る思考をさえぎって
私はお客様に「どうぞ、ごゆっくりお考えください」と微笑んだ。
待ちくたびれた子供の手を握って会釈するお客様に頭を下げて見送ると私は先ほどまでお客様と眺めていたパソコンの前に戻った。
画面に映る無垢な子供の笑顔はとても愛らしかった。
「さっきの人、すごい悩んでたね。この子、可愛かったぁ」
目の前の空いた席に笹倉さんが座って画面を見つめていた。
「カット数が絞れなくて。結局、写真集二冊、作っていきましたよ」
彼女はマウスをさわり、次々と画面を変えていく。
ピンクの着物。青のドレス。赤いドレス。
幼い少女が画面の中で巡っていった。
私の職場は写真館だ。
七五三や成人式の撮影、衣装レンタルなどを生業としている。
笹倉さんはカメラマンで社員さんだ。
ついでにいうと私は契約社員。
この写真館「スタジオ タイム」のほとんどは女性だったりする。
10代から50代までいるスタッフのほとんどは何かしらの技術者だ。
着付け師や美容師、カメラマン。
それぞれ、苦労して手に入れた技術を生かし一枚の写真を作る。
中には何の技術ももたない人間もいる。
私もその一人。
だって、まさか自分がこんな仕事に手を出すとは思っていなかったから。