薬湯
「なんじゃこれゃ?」
ドラゴン達は 再び 火口の縁に並んで 首をひねった。
「どうでもよいが わしは疲れた。
温泉に浸かった後は たらふく食って やわらかいベッドで眠りたい」
穴ぼこに挟まってできた打ち身やら、体を抜こうとして暴れた時にあちこちひねってしまった体の痛みにうんざりしている神龍。
「温泉ねえぇ」他の龍たちは 念力を使って周囲を探索した。
「手ごろな水たまりがあるから あそこの水を温めよう」火竜
「ゆであがったほかの生き物と一緒に湯に入るのは嫌だな」氷龍
「しょうがない。だれか 大きな穴を掘ってよ。
そこに 僕が水を入れるから」緑龍
グリーンドラゴンは 植物の生長に必要な水を司る力も持っていた。
つまり、緑龍の出す水は、植物だけでなく 生き物全般に良い効果をもたらす滋養に富んだ水なのである。
「君が出す水を沸かしたら、体によさそうな温泉になるだろうね」
氷龍。
氷龍が出す水は 基本的にH2Oの純水である。
「まったくもって 風呂に入るにも 面倒なことよ」
神龍は ぼやきながら飛び上がり、山の頂から少し下って、山腹にできた 別の噴火口跡へと降り立った。
そこは、すでに噴出孔がふさがり、浅く広いくぼ地となっていた。
そのくぼ地の中の端の方で、
神龍はバサバサと強く羽ばたいて風を起こして やわらかい表土を吹き飛ばし
エイエイと地面を蹴りつけて、硬い岩盤に穴をあけた。
「さすが 神龍。」
氷龍は くぼ地の中に良い具合にできた、ふち付きの穴を見ながら言った。
「では まず 水漏れしないように」
そう言って火龍は、神龍が作った大きなくぼみの内側に炎を吹き付けた。
ファイヤードラゴンの火力は 土をも溶かす。
溶けた土中の成分は 琺瑯だかガラス質だか金属だかよくわからないけれど
いい感じに穴の表面を滑らかに覆って ドラゴンサイズの湯舟のようなものが出来上がった。
そこに、グリーンドラゴンが水を注ぎこんだ。
湯舟全体が火龍の熱で熱くなっていたので
緑龍が注いだ水も いい具合にあったまった。
水蒸気爆発が起きたり、せっかくできた湯船の被膜がひび割れたりしなかったのは、大地に優しい緑龍の魔力の効果かもしれない。
というわけで、ダンジョンのある高い高い山の山腹に、ドラゴンサイズの風呂が出来上がった。
残念ながら ドラゴンお一人様サイズではあったけれど。
「それでは お先にどうぞ」
3頭の龍たちは 神龍に順番を譲った。
「ありがとう」
神龍は ありがたく 一番風呂に入ることにした。
「ふぅ~」 ゆったりとした気分で 羽を広げて湯に浸る神龍
緑龍の力のこもった薬湯温泉が、
神龍の疲れと打ち身を癒し、こわばった体をほぐした。
※天空の山の外見イメージは富士山です!