地龍登場
薬湯でくつろぐ神龍
その周りを囲む3頭の龍は、 神龍を守っているのか、たんに風呂の順番待ちをしているだけなのか、その両方なのか・・
突然 地揺れが起きた。
身構える4頭の龍。
くぼ地の中心 かつての噴出孔あたりから 突然茶色の龍が首を出した。
そこから這い出してきたのは モグラのような形態をしたドラゴン、地龍だ。
「お前さん達、なにをしとるのかね?」地龍
「天空ダンジョンの扉が大きくなるのを待つ間、ここで風呂に入っている」火龍
「天空ダンジョン?
あれは ずっとしまっておったのではないか?」地龍
「我らが、扉を出したのだ。
しかし 小さぎるゆえ、扉を大きくするように命じてきたところだ」
神龍が胸を張って言った。
「それは それは。
どうりで、地中が騒がしくなったはずだ」地龍
「ところで お主は ここで何をしているのだ?」氷龍
「わしか?
わしも 昔は 天空ダンジョンに入ろうとしたのよ。仲間といっしょにな。
しかし 仲間の飛行能力では、このくぼ地に来るのがやっとのことであった。
計画では、このくぼ地から わしがトンネルを掘ってダンジョンにもぐりこむ予定だったのだが・・
やはり結界にじゃまされて、トンネルを掘り続けることができなんだ。
仲間たちは あきらめて撤退を決めた。
わしは もう少し 穴掘りを頑張りたいと主張した。
結果として 空を飛べる仲間たちは去っていき
わし一人で 穴掘りを続けたのだが やっぱり思うようにいかなんだ。
そこで いつかほかのパーティが来たら合流するつもりで、わしも地中で眠ることに決めたのよ。
そして さきほど 振動を感じて目が覚めたので出てきたというわけだ。」
「あなたが出てきたところは、噴出孔なのですか?
それともあなたが堀った穴ですか?」緑龍
「ここは 昔の噴火口の跡地のようではあるが、噴出孔は完全に埋まっていた。
わしらとしては、この山の頂上にある ダンジョンの入り口でもある竪穴に、こちらの噴出口跡がつながっていることを期待していたのだが
外れてしもうた。
ならば、こちらから、横にトンネルを掘って、
ダンジョンが広がる竪穴の側面に穴をあけて入れぬかと試してみたのだが・・
こちらの噴出口から下へとつながる竪穴の側面が案外硬くて、
わしの爪では ひっかき傷すらつけられぬのよ。
しかも、こちらの竪穴を下に掘り進もうとしても
穴を掘れる場所は崩れやすくて 下へのトンネルを維持できん。
側壁に穴をあけることもできん。
竪穴でなくとも、こちらの火口跡の地盤のしっかりしている所に穴をあけることも試したが、
地盤のしっかりとしている所は 難くて穴をあけるのも苦労ばかりだった。
仲間たちは、トンネルが進まぬ状況を見て立ち去ったのだが
わしは 意地と根性で穴掘りを続けようと居残った。
しかし 結局 行き詰まり、気落ちして寝ることに決めた。
寝ている間に わしの堀ったトンネルも土砂で埋まってしまったようだが、
さきほど 振動を感じて目覚めたわしが、そこを再び通り抜けて地表に出てくるのは さほど困難なことではなかった。
少し時間はかかったが。」土龍
「それは 大変な経験をされましたね。
ところで これからどうするおつもりですか?」神龍
「お前さん達が 天空ダンジョンに挑むのなら、わしも仲間にいれてくれんかの?」地龍
「あなたのお持ちの能力や食料はいかほど?」神龍
「食料は 尽きたな。
能力は 穴掘り特化型だが・・
使える土があれば 土壁くらいは作れるぞ」土龍
「つまり、あなたは、私たちにくっついてきて、養ってほしということですかな?」神龍
「身も蓋も無いことを言う
ダンジョンの中に入れば、土の中から食料を見つけ出して集めたり
土の中の小型モンスターと戦うことくらいはできると思うぞ」土龍
「小型モンスターねぇ」氷龍が溜息を土龍に吹きかけた。
「おお寒い!」土龍は穴の中に飛び込み叫んだ。
「よせやい! 体の芯まで凍り付きそうだ!」
震えている土龍をしっかりとスキャンしその全能力をコピーした神龍は言った。
「我の眷属になるなら、仲間にしてもいいですよ。
このまま あなたが野垂れ死ぬまでほっといた方が私たちとしたら
手間いらずなんですけど、
あなたが 生き残るために一緒に来たいというなら、
仲間としてしっかりと働いてもらいます。
そして 私たちに害を及ぼすことがないように、私の眷属になってもらいます。
もちろん 我らに害をなしたり悪しきことを企んだ時には、容赦なく消しますから」
「眷属ぅ~」地龍は小声でつぶやいた。
「せめて 主従の誓いで 手を打っていただけないでしょうか?
私一人では、ここから出ることもかないませんし、
かといって このまま千年二千年と次の訪問者を 当てもなく待ち続けている間に
皆さんが ダンジョン攻略をすませてしまうなんて 嫌です。
ですから ぜひとも お供させてください!
ですが、地上に連れ戻っていただいたあとの龍生のすべてをお捧げするのもつらいです。
私は地龍
自由に空を飛び回る皆様と生涯を共にするのがきついです。
ですから、私を忠臣にしてください!
主様に仕えている間は、誠心誠意 全力を尽くして忠心を捧げることを誓います!」
地龍は 頑張って交渉した。
「ふむ ならば 期間限定の眷属契約はどうだ?」神龍
「期間限定の眷属契約ぅ??」地龍
「うむ、まずは お主が わしに無条件の忠心の誓いを立てる。
われはをそれを受け入れ、そなたを われの眷属とする。
そして 天空ダンジョンの探索が終わったのち、
そなたの功績を認めたわしが そなたを解放するのだ。」神龍
「それって 功績を認められなければ 解放は無しってことですよね」地龍
「当たり前だろ。
僕たちに おんぶにだっこ、顎脚つきの丸抱えを要求したんだから
それくらいの代償を払うのは。」
地龍のわがままぶりに イライラしていた火龍は 言った。
「龍は大食いだ。
お前を養うくらいなら 今 ここで モグラの丸焼きにして食べてしまってもいいんだぞ」火龍
「お前なんか 口汚し程度にしかならないくせに
なにを 贅沢 我ままを言っているんだか」
氷流は冷ややかに言った。
「神龍は優しいからねぇ
見ず知らずの奴を旅のお供になんて 普通は受け入れないよ」
緑龍も 口調はのんびりだが 厳しいまなざしを向けながら言った。
「そもそも おまえ ここでは 自分の食糧をまるで手に入れられなかったから
冬眠を決め込んだんだろう。
そこから目覚めたお前は、腹いっぱい食わなきゃ ろくに歩けないはずだ」氷龍
「一般的な土龍の基準からすると、今のお前は 自分の体の3倍分以上の量の肉を必要としているはずだね」緑龍
その鋭い指摘にドキッとする土龍
「しかも お前は 穴掘りしか能がない
というか 先に食べなきゃ あと半日持ちこたえられないくらい弱っているはず」
ビシッ
「なんで そこまでわかるんですか?」土龍
冷ややかなまなざしを向ける緑龍
「お主は ほんとに愚かよのう。
緑龍にそのような口を利くとは」神龍
「やっぱり 消し炭にしようよ。
こっちの好意に付け込むことしか考えてないやつは嫌いだ」火龍
「だよねぇ
存在そのものが 迷惑でしかないよ、こいつ
だけど見捨てるのはかわいそうだからと
せっかく神龍が 自分の眷属にして地上まで連れて行ってやろうといってくれてるのに」
凍り付くような声音で氷龍が言う。
「目ざわりだ。三つ数えるうちに姿を消さないなら 一瞬でチリにしてやる」
火龍が火吹きの態勢で言った。
「申し訳ありません
お助け下さい!
服従します!」
地龍は 4頭の龍の前にひれ伏した。
4頭の龍は互いに顔を見合わせ・・
「フっ」
火龍が 鼻息を飛ばした。
地龍はみるみる縮んで、火龍の爪先ほどの大きさになった。
「これで 燃費がよくなったはず。
僕のしもべになるなら、地上までついてきてもいいぞ」
いきなり火龍に体のサイズを縮められ
体という器の中に入っていた「自分の存在」というか「力」というか
ようは器の中身が圧縮されすぎてはじけ飛びそうな苦しみにもがく地龍
「助けてやろうか?」神龍の声がする
「助けてください。
あなた様の眷属になります あるいはしもべになります
なんでも言うことを聞くから 助けてください!」
必死で地龍は叫んだ
「ならば 誓え!臣従を!」
「誓います!決して皆様の害になることはしません。
皆様の命令に従います
わがまま勝手も言いません しません!」土龍
「よかろう そなたをモグーと名付けよう」
神龍の言葉とともに、自分の中の力がごっそりと抜き取られるのを感じた土龍改め、モグー。
本来なら 自分の力をごっそりと抜き取られたら文句の一つもでるところであるが、
今回は それよりほかに助かる道はないということがよくわかっていたたので、
モグーは、心底「助かった!」と思った。
「あのさ、けっきょく モグーは誰のしもべなの?」火龍
「モグーは わしの庇護を求めて わしの眷属になりたいといい
己の命惜しさに、わしら4人のしもべになると誓ったのだと思うが」神龍
「つまんない。
せっかく 僕の子分にして、僕のつま先にでも 載せていってやろうかと思ったのに」火龍
「君ねぇ、それで あんなに ちっちゃい体にしちゃったのか、地龍を」
氷龍はあきれた口調で言った。
「そうだよ。だって 邪魔なんだもん。
でも どうせ、神龍が哀れみをかけようと言うと思って。
だったら 石ころ程度に縮めておいたほうが、あとくされがないかなと思ったんだ」火龍
「だったら その前に まずは 対象の力を抜かないとだめじゃないか」緑龍
「忘れてた。
というか そこまでしなくても大丈夫かなと思って手を抜いた」火龍
「それって 確信犯的殺害になるところだったよ」
少し厳しい声で緑龍が言った。
「結果的にそれでもかまわないと思った。
だって そこまでしてやる義理はないもん!」火龍
「まあ 神龍でなければ モグーを助けられなかったのは確かだ」氷龍&緑龍
元土龍・今モグーも 「うんうん」と小さな小さな首を振って同意を示した。
というわけで、地龍は、神龍の忠臣として「モグ―」という名を賜り、
火龍のしもべとして、火龍に仕えることになった。
たとえて言うなら、ドラゴン基準で石ころサイズとなったモグーは
神龍親分の下、直接の上司である火龍に仕えることになったのだ。
◇
眷属と違って、忠臣というのは主従契約なので、主である神龍が認めれば
自由を賜わることができる。
そのかわり ひたすら 主人の為に働いても、能力付与などの恩恵を施されることはない。
せいぜい 食糧を与えられ、運が良ければ恩賞としてなにがしかのお宝を下賜されるくらいだ。
それでも、地龍としたら、地上に連れ戻ってもらったあとのお礼奉公は仕方がないとしても
一生を 空を飛ぶ龍に仕えて過ごすよりはましだと思った。
しかし、4頭の龍からしてみれば、誰も土龍を家来にしたいとは思ってなかった。
むしろ 眷属や下僕として養う負担だけが自分たちにのしかかってくる、迷惑だとしか思わなかった。
だから 自己中心的な主張をする地龍に、火龍と氷流はイライラ、緑龍は心底腹をたて、
叩き潰して ポイしたいなぁと思ったのであった。
それでも 慈悲深い神龍に遠慮して、上記のような展開になったのであった。
◇
モグーは、かつての地龍族の中では 最高の力を持つ存在であった。
(今の地上ではどうかわからないけど)
だからこそ、神龍を「絶対強者で太刀打ちできない存在である」と認識することができた。
しかし 地龍としての生活感覚からすると、空を飛ぶ一族に生涯を捧げるなど到底無理と感じたのだ。
だから正直に自分の本音を言ってみたのだが・・
4頭の龍からすると 「ごくつぶしが寄生しに来た」としか見られていないことに気が付いて
大いにショックであった。
だが、自分の存在は 4頭の中で一番若くて未熟そうに見える火龍にすら
石ころ以下でしかなかったと現実に見せつけられて・・
「しょうがないなあ
ここは 神龍の恩情にすがってでも助かりたい」と思った。
というか そう思ったのは すべてが終わってからで
あの時は 無我夢中で助けを求め、差し伸べられた手にすがってしまったのであった。
ここはもう 腹をくくって、火龍の命令にしたがうしかない!
と モグーは マジで思った。
◇
神龍の本音
神龍は 平和主義。無駄な争いごとを好まぬ性格だった。
もちろん 必要な手をうつことに ためらいはない。一つ目のダンジョンを乗っ取ったように、
しかし、特に必要がなければ 何事も穏便が一番! という考え方であった。
(わしだって、好き好んで 土中生活の地龍と付き合いたいとは思わぬ。
ただ このまま打ち捨てていくのもかわいそうだが、面倒を見てやる義理もないので
裏切り防止・わしらの邪魔にならないように行動させるための枷として、
また ダンジョン内での本人の生存確率を上げるために眷属に誘ったまでのこと。
それに 不服を唱えて、火龍たち3頭の怒りを買ったのは 奴の責任。
とりあえず 奴の命は助けてやった。
あとは 火龍が 奴の面倒を見ればよい。
旅の途中で奴が事故死ようと、火龍に踏みつぶされようと、わしは知らん!
火龍は 短気ではあるが 筋は通す奴だ。
理由もなく 奴をうっちゃるようなことはすまい。
わしの仲間は火龍・緑龍・氷龍だ。信頼における仲間だ。
悪気なく当然の権利のような顔をして われらに寄生しようとする奴に信をおくほど
我らは愚かではない!)
神龍は心の内でつぶやいた。
ドラゴン喫茶の 序盤は ここまでです。
この続きを再開するときまで とりあえずは「完結」表示にしておきます。
(すみません)
それでは 皆様 よいお年をお迎えください。




