第9話 酒場を探して
北の関所までこれたのはアルマの父親が馬車で送り届けてくれたお陰だ。
どうやら関所ということもありセイントリア王国の兵士もいるようだ。さすがは領地が広く支配力が強い。
何事もなければここで待っていてくれるはずだが気分はどうなのだろう。
「俺の気分かい? この先でエルザが殺されたがそれはもう過去の話だ。だがまだ暗躍している奴がいると聞いてどうしようかと思っているところだ」
過去に捕らわれなくなったのか。早く北の塔を制覇してアルマの元に戻れるようにしないといけない。これ以上に危険な目には遭わせられない。
「多分だが教えた謎の魔人は黒幕に違いない。だからこれから北の塔に行く術を探す」
当てはない。だがなんとしてでも北の塔に向かわないと平和な日々は戻ってこない。セリカは意外に強いことが分かったから頼りにしている。
「そうか。気分がちょっとずつだが優れてきたよ。戻るときはいつでも話し掛けるといい。ここで待っているからな」
本当は北の塔まで頼みたいがやはり危険な目に遭わせられない。ここは最悪だが歩いていくことになりそうだ。強いセリカにそんな体力があるのだろうか。
「有難う。それじゃ」
「おう」
ようやく着いた関所を通り越すにはまずギルドの紹介状がいる。その後に必要なのが足となる移動手段だ。そもそも用がないのに通るのは無理があるだろう。
そのことを踏まえた上で俺とセリカはアルマの父親から離れていった。きっとここで名を上げれば北の塔までの道のりを確保出来るはずだ。頑張ろう。
「どうするの? これから」
「心配か。ギルド以外にも名を上げる方法はある。とにかく手当たり次第になるが行くしかない」
「そっか、馬車に慣れてきたところなのに」
セリカは凄いな。初めての馬車と思うがまだまだ余裕そうだ。俺とは違う訳か。セイントリア王国にくるときですら馬車の中はなんとも狭くて心が苦しくなるときがあった。
とにかく今は馬車以外の方法で向かえるように関所の酒場に向かおう。なかったらかなり困るがもう歩く以外に思いつかない。セリカはどんな反応をするだろうか。
「これから酒場に向かう。そこで名を上げて無理なら歩いていく。いいか?」
「分かったけど酒場ってあたしでも入れるのかな?」
「入れるさ、ただお酒は頼めないだけで。だが変なことはしないでくれよ、頼むから」
「変なことはしない。約束する」
「それはよかった。それじゃ急ごう」
まずは酒場の看板を探さないと始まらない。なかったら関所の至る所で聞き込みをして名を上げよう。ここなら困りごとがありそうな雰囲気に包まれているからな。
いやいやここですでに酒場の看板が見当たらない。嘘だろ。王国外とは言え酒場はあるものじゃないのか。どうしてないのか訊くしかない、ここは。
「やはり酒場が見当たらない。ここは訊くしかない」
「う、うん」
歩くのはさすがに現実離れしている。なんとしてでも見つけなければいけない。
近くに商人らしき男性がいた。すかさず訊くことにした。
「ん? 酒場の看板は下ろしたんだよ、北の魔物のせいで。ガストンさんなら今も自宅にいるんじゃないのかな? 最近は引きこもっているそうだがな」
なんてことだ。北の魔物はここまでの影響を与えていたのか。しかも酒場はもうないとあったら歩いて行くしかない。覚悟していない分の衝撃は計り知れない。
「ねぇ? ディアス! ガストンさんが心配だよ! 助けてあげようよ!」
確かにと言いたいが北の魔物はもういない。どう助ければいいんだ? ここは――
「なんだか凄く嫌な予感がする。ディアスが行かないならあたしが行くよ」
「待て! 俺も行く!」
「ディアス」
「ガストンさんの家なら南の出口を通らずに右だよ。ここは真ん中より北だから南に戻らないとな」
なんて親切な商人さんなんだ。分かりやすくて助かる。セリカは本当に方角が苦手そうで今にも忘失しそうだ。
「有難う! 行ってみるよ!」
「なんの! あんただろう? あの馬車できたのは? 助かるんだよ、商人としては、本当に」
そうか。商品の入荷が途絶えていたのか。なら今後は商品の種類が増えるかも知れない。
「ディアス! 行こう!」
「そうだな! 行かないと!」
「うん!」
北の塔に辿り着くまでまだ時間が掛かる。ここはなんとしてでも今日中に出発したいが無理なら宿屋に泊まるしかない。元店主のガストンさんに会ってなんか奇跡が起きればいいのだがどうだろうか。
関所とは言え必要最低限の居住区があるのは助かると思いつつ俺とセリカは元店主のガストンさんに会うべく南側に向かった。すんなりと会えたらいいのだが俺とセリカで本当に助けることが出来るのか。
今の俺では判別が出来なかった。