第8話 御者の機転
悪い北の魔物を殺したがあのまま放置する訳にもいかず墓を作るなり出来ることはした。
そこから東の森を抜けようと来た道を遡ったがどうやら迷子になったらしい。
これはまずいと思いなんとか冷静になるために立ち止まった。確かに俺は記憶どおりに動いたはずだ。
「もしかして迷子になったのはあの魔人のせい?」
「有り得る。なにかしらの魔法を東の森に掛けたんだろう」
「そうなんだ。あたし達は出られるのかな」
「出る方法は一つしかない。それは魔法を打ち消すことだ」
「あの魔人は北の塔にいるから無理のような――」
「いや。あの短時間で魔法を掛けるなんて不可能だ。きっと仕掛けがあるはずだ」
だが小さな森とは言え探すのは一苦労しそうだな。ここで思うのは魔人が来た方角がどっちからだと言うことだ。ここはセリカに訊いて見なければ分からない。
「セリカ! 魔人はどっちから来た?」
「え? 確か……北からかな?」
「北か。ここは戻ろう」
「うーん。方向音痴のあたしは当てにならないよ、それにあの時は呆然としてたから」
なら北か西のどっちかだろう。もし西ならここら辺にあるはずだが見渡してもなにもない。ここは戻った方がいいのか。俺は悩み暮れているとどこからか聞いたことのある鳴き声が微かに耳に入った。
「あ……この鳴き声はパトリシアだ」
「と言うことは――」
西の入り口にアルマの父親がいると判断した。次第にパトリシアの鳴き声は大きくなりはっきりと聞こえた瞬間――
「うー!? 馬だっちー!? あー!? しまっちー!?」
どこからか謎の声が耳に入り込む。感覚を研ぎ澄まし声の方へ体を向ける。
「だれもいない!?」
「いるよ! そこ!」
セリカは右手首から糸を作り出し謎の声がいそうなところに放った。木と木の間にあるのは茂みだがそこに潜んでいるのか。
「いる! 出てこい!」
セリカが糸を引っ張ると茂みからなにかが出てきた。茂みに入れるくらい出てきた物体は小さかった。見たところ人ではなく魔物のようだ。
「恥ずかちー! 茂みほちー!」
なんだか出てきたことが恥ずかしく今すぐにでも茂みがほしいことは分かった。だがそれよりも――
「お前が俺とセリカを閉じ込めた犯人か!」
「そうでちー! うー! 恥ずかちー! 茂みほちー!」
意外に正直だがなにもせずに出してくれるとは思えない。ここは茂みの元へ帰すことを条件にしてみるか。
「どうだ! 恥ずかしいだろ! 茂みに帰りたいだろ!」
「恥ずかちー! 茂みほちー!」
「だったら森の魔法を解け! そうすれば帰してやる!」
「ほんとでちー? 茂みほちー! 恥ずかちー! 解くちー! それっちー!」
謎の魔物は声に出す以外になにもせず解いたようだ、本当に解いたかどうか分からないのが癪だが。それでも悪い魔物とは思えなくなったからここは信じることにした。
「もう悪さするなよ! 今度は茂みを燃やすからな! 覚悟しろ!」
「うー!?」
「もう外していいよね? 帰せないから」
「ちー! 恥ずかちー!」
それしか言えないのか、それしか言えなくしてしまったのかなんてどうでもいい。とにかく謎の魔物は糸が外れると急いで走り茂みの中に隠れた。
「ふー!」
一安心してから謎の魔物は森の奥へ消えていった。これで本当によかったのかは分からない。だが俺とセリカは信じることにした。
「きっと唆されたんだよ! 絶対にもう悪さしないと思うよ! あたしは!」
絶対か。信じるには早過ぎるような気がする。だがここはとにかく森の外に出なければいけない場面だろう。
「外に出れるといいね」
「出れないは思いたくないな。あれだけ必死に訴えかけておいて裏切るはないと信じたい」
「目指すは西の出口だね! ディアス!」
「急ごう! セリカ! アルマの父親が待っている!」
「うん!」
こうして俺とセリカは東の森をなんとか抜け出しアルマの父親と再会することが出来た。本当に解かれていたところを鑑みればあの魔物は唆されていただけなのかも知れない。
北の関所ですら目指すのに難題が多い。このままだと身が持たないと思い俺は馬車の中で背もたれ眠りにつこうとした。やはり仮眠は大事だと感じたがセリカは起きていた。
とにかく俺とセリカは無事を祈りつつ北の関所に着くまでそれぞれ平穏な時間を一緒に過ごした。