第6話 魔物の襲撃
北の門から出たセイントリア王国の外は道が出来ているほどに長閑な風景なのだがそこに人を襲う魔物がいるなんて信じられない。
俺の認識ではそんな簡単に魔物は人を襲わないのだが北の魔物は違うようだ。馬車の中から会話をしていて気付いたのは北の魔物が人語を喋ると言うことだ。
それはすなわち一定の知能を有しているということだがこんな近くにそのような魔物がいるとは不思議な感覚だ。知能があって人を襲うということはなにかしらの目的があるのだろう。
「しかもだ。喋る魔物はなんと空を飛んでいたらしい。くれぐれも空からの奇襲に気を付けてくれ。それと馬車の中に回復薬がある。料金はいらない。敵を討ってくれるのならいつでも使っていい。頼んだぞ」
さすがは御者だ。はなから準備は万端という訳か。ここは有難く頂戴しておこう。
「うー。あたしの出番が~」
確かにセリカの出番が減ったな。だがこのまま直行出来るのは本当に有難い。無事に辿り着けたら北の魔物をさっさと探そう。それがいい。
「しょうがないな~。あたしも回復薬を予備として持っとくよ。いざとなったら呼んでね? ディアス!」
今になって思えば嫌にならない空気ほど場違いなことが起きると言えた。どうしてそれが俺とセリカには理解が出来なかったのだろうか。
「おう? ……う、嘘だろ? お、おい! お前さん達!」
アルマの父親が狼狽えていた。異常事態になったと今頃になって気付いた。余りの衝撃にアルマの父親は馬車を急停止させた。
「早く降りろ! きたんだ! あいつが!」
慌てて外に飛び出すと北の魔物らしき黒い物体がアルマの父親に襲い掛かろうとしていた。
「ダメだ! 間に合わない!」
俺の範囲では守り切れない。そう血相を変えていたときセリカが急に走り始めた。なんだか分からないが手立てがあるようで今は頼るしかない。
「させない!」
短剣が飛んでいる? 違う! これはよく見ると糸で飛ばしているだけだ! セリカの短剣は真ッ直ぐ北の魔物に突き刺さり勢いのまま引き抜かれた。気付いたときにはセリカは糸ごと短剣を振り回していた。
「ぐぬぬ!? 北の塔には行かせん! よくも俺様に傷をぉ!」
混乱中か。なら今の内にアルマの父親を逃がさないとな。と言う前に逃げる行動に徹していたか。
「許さん! 許さんぞぉ! 人間如きが俺様に逆らうなぁ! お前達から食い殺してやる!」
怒っている。そもそもどうして北の塔に行かせたくないのか。答えによってはやらねばならない。だがこうも空を飛ばれては俺の方こそ出番がないように感じる。ここはどうするのか。
「もっと先で人間を殺めればよいとあいつに言ったのだ! こんなところで負けてたまるかぁ!」
あいつと言うことは他にもいるのか。揃う前にやらねば厄介になるだけだ。ならここは――
「セリカ!」
「分かってる!」
馬車がない今なら動ける。セリカの範囲ならば射止めることが出来るはずだ。落ちたところで止めを刺す。
「これは……エルザさんの分!」
「ぐ」
「そしてこれとあれはアルマ達の分!」
「ぐお!? ぐおお!?」
凄まじい速さに北の魔物はついていけてない。セリカは最後に短剣の柄を頭上に落とそうとしていた。だが――
「ふん!」
北の魔物に振り落とされた短剣は急に現れたもう一体によって防がれ弾かれた。だが北の魔物は戦意喪失のようだ。
「逃げるぞ! 兄弟! とにかく傷を癒さなければ!」
「ならば東の森に逃げ込むぞ! 北の塔は一時的に諦めろ! 行くぞ!」
東の森は知らない場所だが憂慮している暇なんてない。後を追わなければ――
「セリカ! 追うぞ!」
「あ! ちょっと待って! 短剣が!」
そうか。糸が邪魔で鞘に納まらないのか。仕方がない。ここは待つぞ、離れ離れになる訳にはいかないから。
「ごめん! 魔法の糸だからそれまで待って!」
「分かった! だがなるべく早くしろ! 間に合わなくなるぞ!」
「よし! 行ける!」
「目指すは東の森だ! 馬車が戻ってくる前に片付けるんだ!」
二体の魔物を俺とセリカだけで倒せるのだろうか。だが迷っている暇はない。馬車が戻ってくる確証もない。でもそれでも俺は出来ることを全力で成し遂げたい。
見たところ東の森はセリカの範囲技は使えそうになかった。しかも二体になった今を本当に討てるのだろうか。俺とセリカは半信半疑のまま東の森へ向かうことにした。