第3話 アルマの家族
あれから御者の連中に話を持ち掛けたが北の魔物が原因で全て断られた。
だがセリカが言うに最後の御者があるらしい。なんでも引退寸前の御者らしかった。
そこは王国内の北の門より片隅にありいかにも追いやられた雰囲気がしていた。
馬車は一台しかなく本当に引退寸前の気配がしていたが手入れは行き届いているようだった、もしかしたら使用していないだけかも知れないが。
それよりもこの臭いは油なのか? なにかが入り混じったような臭いがする。
「相変わらずだね。アルマはいるのかな?」
セリカが言うアルマとは御者の子供のことらしい。聴いた感じだと女の子か。
「ここの御者はね。あくる日も酒浸りで――」
どおりで臭う訳だ。ならここは俺よりもセリカの方が詳しいと思い敷地内の確認は任せていた。だが俺の勘では後ろに人の気配が――
「だれ? おじさん?」
やはりか。見知らぬ人として扱われたらまずいな。もう既にそうなっていたが俺は気付けなかった。
後ろに振り向くとそこにはセリカと同い年と思える女の子が立っていた。
んん? 俺のことをこの子はおじさんと言ったか? 俺のどこがおじさん――
「アルマ! ごめん! あたしだよ!」
俺が否定しようとしたらセリカが急に目の前に割り込んできた。俺は断じておじさんではない。心の中で否定しておく。
「なんだ。怪しいおじさんだけかと思ったよ。セリカがいれば話は別だね」
「う。怪しいおじさん」
なんか付け加えられているが今はそれどころじゃない。なんとしてでもギルドの一員にならなければいけない。その為には――
「それで? セリカと変なおじさんはウチになんのようかな?」
なんだかどんどん昇華している。まだ怪しいだけなら初対面でありかも知れないが変となるともう俺自身が否定された気分になる。
「あのね! アルマ! 御者の仕事を頼みたいんだけど!」
なんだ? 急に場が凍り付いた。そう言えば御者は酒浸りと言っていたな。それが関係しているのか。
「セリカのバカ! 知ってるでしょ! お父さんは酒浸りでそれどころじゃないって!」
深刻だな、これは。なんてことだ。アルマの父親の方も救わないといけないな、これは。
「そう……なんだけどさ。どうしても北の塔に行かないといけなくて」
そうだ。もうここしか頼れる場所がない。セリカの姉が掛かっている。アルマも悩んでいるんだな。
「無理だよ! 家族より大切なことってなに? 他の御者に頼めばいいじゃない!」
ここは年長者の俺が出ないと面目が立たない。どうか静まってくれると助かるのだが――
「立ち向かうのは立ち向かってほしいからだよな。俺なら無視するかその場を去る」
そうだろう? 本当に嫌なら聴く耳を持たず無視するかその場を去ろうとするはずだ。
「なに言って!?」
「まぁ落ち着けって。アルマが家族をどうにかしたいって思ってるのなら俺とセリカも力を貸す」
アルマの家族になにがあったのかを紐解けば力を貸すことが出来る。アルマもセリカも俺がなんとかする。
「ほんとに? 手伝ってくれるの?」
「俺とセリカも手伝う。約束だ」
酒浸りの人を救うにはきっと俺とセリカだけじゃ無理だ。そこには果てしない話し合いとアルマの気持ちが必要なんだ。これは家族の問題でもある。
「ありがとう! 信じてみるね! お兄ちゃん!」
こんなにも負けられない衝動に駆られたのは初めてだ。アルマは笑顔が似合う普通の女の子だ。なんとかして三人で切り抜けないといけない。
「まずは俺が先に入る。アルマは最後についてきてくれ。頼む」
いきなり家族に押し付けるのではなくある程度の距離感を保ちつつ先に俺が会話する。今はそれが一番のような気がしていた。
「分かった」
セリカに似てアルマもいい子だな。もう後戻りは出来ない。心して掛からないとこの家族愛は取り戻せない、失われそうになった家族愛が本物だと気付いてくれればいいのだが。
「あたしも頑張るから! アルマもディアスも頑張ろう!」
「相手は酒浸りの父親だ。三人で愛があることを教えてやろう。行くぞ」
「うん!」
こうして俺、セリカ、アルマは酒浸りの父親に会うべく上がり込むことにした。最初と違い清々しいほどに未来を切り開くための動機が今を越えて一丸になっていく。
最後にこれだけは言える、真の家族愛は俺とセリカでは絶対に取り戻すことは出来ないと。