第2話 ギルドの昇級試練
俺とセリカは長話をやめギルドの施設に入り今は受付嬢と対面していた。
なんでも昇級試練用の塔があるらしくセイントリア王国を出なければいけないらしかった。
目指すは北にある関所よりもっと北であり果たしてセリカに行ける距離なのかが疑問だった。
馬車を使おうにもここにくるまでに金は使い果たしている。行きと帰りにどれだけの体力を使うのか。
「だぁかぁらぁあたしは行けるって言ってんの!」
仮に行けたとしても帰りはどうするつもりなのだろうか。やはり子供に昇級試練は厳しいか。
「これ以上のお答えはできません。どうかご無事で」
だろうな。そもそも余りに助言しすぎると昇級試練の意味が薄れてしまうからな。
「行くぞ、セリカ」
俺が受付嬢との会話を諦め離れようとするとセリカは悪態をつきつつもついてきた。
「あたしってそんなに頼りないの? 確かに方角が分からないってのはあるけどさ」
温室育ちには外の険しさなんて分からないのだろうな。俺がなんとかしなければいけないってことか。
「とにかく馬車は無理だ、この王国内でなんとかなればいいのだが」
俺の知恵ではどうすることもできないかも知れない。だがやってみる価値はあるだろう。考えろ。
「そうだね! 馬車は無料――。ああ!?」
「どうした!? なんか思いついたのか!?」
「そう言えば御者の子供が言っていたけど馬車を狙う魔物がいるんだって。どうにかならないかな?」
「馬車を狙う魔物か。俺に退治しろと言うのか」
「うん!」
「うん! っておいおい」
だがもうそれしか方法はなさそうだな。セリカが参戦しないのは仕方がない、まだ子供だから。
こんな俺でも情はある。セリカにこれ以上の盗みはさせられない。もう覚悟を決めなければならない。
正直に言えば道具屋に寄りたいが肝心の金がない。さすがに道具を無料化するのは気が引ける。ならここは――
「回復薬の生成ならあたしに任せて! 実はお姉ちゃんに教わったんだ!」
実に勘のいい奴だな。なら道端の薬草や森のキノコを手に入れて回復薬を生成してから挑んだ方がよさそうだな。まさかここで俺の収集癖を使うことになるとはな。
「あ……そう言えばディアスの武器ってなに?」
「俺の武器か? それはここで出せる物じゃないな」
「そうなんだ。でも武器は持ってるんだね」
「人はそれを魔法剣と呼ぶ」
「まほうけん?」
「魔物と対峙する前に見せてやるから今は我慢だ、セリカ」
「うん! んじゃ行こう! 馬車乗り場のところまで案内してあげるから!」
「その前にセリカの武器はなんだ? 凄く気になるんだが」
「あーあたしの武器か~。かさ張るからいつものところに預かってもらってたんだった」
もしかしてセリカの武器は飛び道具系なのか。二重にかさ張るのは弓矢だな。だがセリカに弓は似合うのだろうか。
「取りに行きたいけど今はこの短剣で十分かな?」
そうなのか。そんなところに隠していたのか。肩掛け鞄に埋もれているが不便そうだな。もしと言いたいが今まで対人の護身用として使っていたのだろう。
「あんまり見せびらかすなよ。捕まると面倒なことになる」
さすがのセリカもそこまでの行動は見せないだろう。だが念には念を入れておかないと大人失格だろうに。……俺はまだ十八歳だぞ。
「そんなに子供じゃない。それに今までもそうしてきた。お姉ちゃんの為にも捕まる訳にはいかないよ」
聞き分けのいい子で助かる。ならそろそろ本気で行くときがきたな。
「いいか。当面の目的地は北の関所だ。それまでに馬車を無料で貸し出させるようにする。分かったか?」
「うん!」
ここまできたら進むべきだろう。セリカの姉である誓約の聖女に会うためにも俺は護衛をしなければならない。今はセリカに案内役を任せるがいつでも入れ替わる心の準備をしとかないと。
「んじゃ行こう! ディアス!」
「ああ」
先頭はセリカに任せ俺は後を追う。これから起きることは正真正銘の魔物退治だ。ここまできて逃げることは出来ない。まさに試練が始まったのだと感じた瞬間だった。これらの試練を乗り超えたとき俺とセリカはようやくギルドの一員になれる。
そこからさらに知名度を上げればきっとセリカは姉に会えるだろう。それまでこんな平穏がずっと続けばいいのにと初めて気付かされた。こんな俺でも情があるのだと再確認に至ったのはなんとも不思議な気持ちだった。