第10話 ガストンの暴走
なんの代わり映えもしないガストンの家だがこの辺では一軒しかなかった。
なんだか知らないが人の気配を感じない。これはもしかしてこういうときだけ留守なのだろうか。
「ディアス! 扉に張り紙がついてるよ!」
「なんて書いてあるんだ?」
「えーと……地下にいる。居留守は覚悟しろだって」
ガストンは居留守を使っているのか。それにしても地下か。これでは俺とセリカの声が届かず埒が明かないことになるのか。
「俺達の助けはいらなそうだが」
「もしかして北の魔物に立ち向かおうとしている?」
そうだとしたなら地下になにがある。ここの商人は売る品物に一苦労していた。装備が整うとは思えん。せいぜい動物を狩るのが精一杯なのではないのか。
「どっちにしても伝えなければ、北の魔物はもういないと」
「謎の魔人は関係ないと言い切れないのがややこしいね」
「確かに」
会話が終わりかけたそのときだった。家の扉を開け急に人が飛び出してきた。恐らく俺の両肩を掴んでいるのがガストンなのだろう。
「聴いてくれ! ついに、ついに北の魔物を倒すときがきたんだ! あれを手に入れるときがきたんだよ!」
やはりセリカの言っていたとおりだ。ガストンは北の魔物と闘う気だったようだ。
「そのことだが」
「こうしちゃいられないよ! ここは東の森に行かないと!」
「んん? 北の塔じゃなく――」
人の話を聴かない人だ。俺を放した後にガストンは東に向け走っていった。多分だが武器を背負っていたから試し切りに行ったのか。もしくはあれと言っていたから東の森になにかがあるはずだ。
「後で北の塔に独りで行く気なのかな!?」
「無謀だ! 止めないと!」
「分かった! 目指すは東の森だね!」
「ここの関所からでも入れるぞ! 東の森は北に続いていたらしい!」
「んじゃ急ごう! ディアス!」
勢いのまま俺がセリカに返事をし会話を終わらせようとしたそのときだ。また家から誰かが飛び出してきたようだ。
「待てよ! 兄ちゃんの邪魔すんなよな!」
こんなところで邪魔する子供が出てくるなんてどうかしている。ここは早く追いかけないとガストンまでもが被害に遭ってしまう。
「だれ?」
「俺の名前なんてどうでもいいだろ! 早く倒しに行かないと父さんと母さんが残した酒場が――」
セリカに強く当たりなにかと言えばやはり訳アリのようだ。だがそれでも危険すぎる。たった独りでやっていいことではない。どうする? ここは無視することも出来るが。
「行かせない! 父さんと母さんが残した酒場は俺達が守るんだ! 兄ちゃんと俺は一心同体だ!」
俺とセリカの前に移動し子供が翼のように腕を広げ立ち塞がっている、こんなことしている場合じゃないのだが。
「分かったから聴いてくれ! 俺とセリカはもう北の魔物を倒したんだ! 早くしないとガストンが!」
「え?」
「そうだよ! 謎の魔人もいるし早く合流しないと!」
「謎の魔人?」
「お前達になにがあったのかんて分からない! だが今は通させてもらう! ごめん! 後で話そう!」
「あ!? 待て!?」
俺はセリカをおいていく勢いで走り出し子供を横切った。足音が重なるように聞こえてきたからセリカもついてきていると判断した。
「ガストン兄ちゃんは強いんだ! 絶対に北の洞窟にいる魔物に負けたりしないんだ! それがあれば――」
乗り越えてほしい。だがそれでも独りは危険だ。とにかく俺は確信がほしいと後ろにいるであろうセリカに走りながら話し掛けた。
「いるな? セリカ! このまま急ぐぞ!」
「うん! 弟さんのためにも早く合流しないと!」
「そうだ! ガストンは幸い東の森でなにかを手に入れるつもりのようだ! それまでに合流するぞ!」
俺とセリカは東の森に入るために走り続けた。もし東の森で合流が出来れば間に合うはずだ。ここまできてまた被害者が出るのは俺もセリカも絶対に望んではいないはずだ。
関所の東にも出口があることは確認済みでそこから入れたように思える。多分だが立ち入り禁止になっていないはずだ。もし立ち塞がられたらどうするかなんて今の俺は考えていなかった。
ただただ助けたい想いとこれ以上に被害者が出てはまずいと言う想いが俺を焦燥に駆り立てた。果たしてガストンは東の森で無事でいられるのだろうか。それは俺でも分からなかった。