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契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めました~  作者: 九條葉月


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あとしまつ・5


 地下牢から地上へと戻ったあと。殿下がお茶会に誘ってくださった。


 中庭ではすでにアルバート様と、マリー、そしてヴァイオレットが待っていた。


 私を含めて、五人。

 普通ならテーブルも二つくらいに分けるのだけど、なぜかみんな同じテーブルに着きたがっていたので一つのテーブルに五人という貴族とは思えぬ密集具合となっていた。


 もちろんこの面子(王太子&高位貴族)にお茶を入れさせるわけにはいかないので、自然な流れで私がお茶を淹れることになった。


 ……いやおかしい。王宮ならメイドさんもいるでしょう? なぜ私がお茶くみをしているのだろう?


 疑問に思いつつ、みんな美味しそうに飲んでくれているからまぁいいかと思う私だった。こういうところが悪いのかもしれない。


「キミの妹は中々強烈だっただろう?」


 苦笑するアルバート様。どうやらすでにアリスと接触していたらしい。


「――つまらないですわ」


 と、カップをソーサーに置いたのはヴァイオレット。


「わたくしもあの女(アリス)に会いましたの。処刑をちらつかせれば良い声で泣いてくれるだろうと思って。顔はいいですからさぞかし愉快な見世物になると思っていましたのに」


 なんかとんでもないことを言っていますよこの公爵令嬢? ドSだ。サディストだ……。

 というかアリスが処刑について言及していたのはあなたが原因っすか。


「つまらないですわ。自らの処刑すら受け入れてしまう女は虐めようがありません。……それに、アレを見ているとシャーロットを思い出しますし」


 私を思い出すって。見た目は似てないから『自らの処刑を受け入れる』ってところですか? いやいや、そんなまさか。いくら私でも自分から処刑を望むようなことはしませんよ?


「……見た目はまったく似ていませんが、やはり姉妹なのでしょうね」


 なぜか呆れたようにため息をつくヴァイオレットだった。


「――さて。アリス嬢については私に判断が一任されている。というか、みんな関わりたくなくて逃げ出したというか」


 軽く咳払いしてから殿下が切り出した。あー、今のアリスって話が通じてなさそうだし。処刑すら望んでいるし。まともな精神をしていれば避けたいでしょうね。


「彼女の罪状としては王太子や高位貴族に対する不敬。シャーロットへの暴力と、所有する店舗への破壊行為といったところか」


 私への暴力と言ってもあの一回だけで、すぐに治ってしまった。お店もクロちゃんが直してくれたからなぁ。今までの『躾』にしても勘違いが原因となると責めにくくなるし、正直、全部小馬鹿にしながらスルーしていたので大したダメージじゃなかった。むしろ丁度いいストレス発散みたいな?


 あ、そうか。アリスが小馬鹿にされたことを母親に伝えていたら、私はもっと酷い仕打ちを受けていたはずなのか。その意味ではある意味助かっていたのかもね。


 私個人としては、罰したいほど恨んでいるわけではない。


 あとは無関係なサラさんを拘束したことも罪にはなるかもしれないけど……当のサラさんは「妹とは仲良くしなきゃダメよ?」と笑って許してくれたのでここでは言及しない。


 ドSなヴァイオレットは『しょ・け・い! しょ・け・い!』とノリノリだったみたいだけど、うん、やはり処刑は無理すぎでしょう。いや王太子であるクルード様や現公爵であるアルバート様が不敬罪を押し通せばできるだろうけど……。


 ちらりと二人を見ると、アルバート様は力なく首を横に振り、殿下は降参とばかりに軽く手を上げた。


「さすがにあの少女をこれ以上追い詰めることはできないな」


「そうだね。それに、そんなことをしたらシャーロットに嫌われてしまう」


 殿下がテーブルの上に肘を突いた。


「さて。そうなるとアリス嬢への処罰はシャーロット次第ということになる」


 皆の視線が私に注がれる。


 私次第。

 つまり、私の判断次第でアリスは許されると。


 …………。


「ははーん、分かりましたよ? かんっぜんに理解しましたよ?」


「ほんとに理解してる?」


「もちろん! つまりは姉として! 責任を持ってアリスに貴族としての教育を施せということですね!」


「……うん?」


「アリスがあんな風になってしまったのは意思疎通を放棄した私にも責任がありますし! そもそもあの両親のせいでアリスはまともな教育を受けていません! ここは私が! 姉として責任をもって! 一から色々と教えればいいのですね!? なるほどそれなら責任放棄した私への罰になりますし! さすがは殿下です!」


「……いや、被害者はシャーロットなのだからキミが許すことで情状酌量が……うん、まぁ、それでいいや。珍しく褒めてもらえたし」


 なぜか遠く空を見上げる殿下だった。きっと私の姉妹愛を見て感動し、涙がこぼれないようにしているに違いない。



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