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契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めました~  作者: 九條葉月


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閑話 王太子、動く


 ――商業ギルド本部。貴賓室。


 庶民向けの施設としてはずいぶんと装飾にこだわった部屋の中で、この国の王太子・クルードは偉そうに膝を組んでソファに座っていた。


 ……いや、実際途轍もなく偉い人間なのだが、シャーロットが見れば『偉そうですねー』という感想を抱くことだろう。


 そんなクルードの両脇に座るのはアルバート・レイガルド公爵と、カラック・ラスター侯爵令息だ。どちらもクルードの側近であり、本来なら同じソファに座ることもないのだが……ここはクルードが座るのを許した形だ。王宮ならともかく、商業ギルドでまで格式張る必要はない。


 そんなクルードたちの前にいるのは商業ギルドのギルド長と、王都警備の任を受けた第一警備騎士団長。そしてシャーロットの花屋の向かいに黒猫亭という食堂を構える、元Sランク冒険者(・・・・・・・・)であるガロンだ。


「さて、知っての通り。先日シャーロットの店に暴漢が押し入った」


 なんとも底冷えのする声でクルードが話を切り出した。もちろん、ここで言う『暴漢』とはシャーロットに危害を加えたアリスだ。


 クルードはあの出来事を『姉妹喧嘩』で済ませる気はないし、マリーやヴァイオレットが動いているのだから穏当に終わる未来はない。だからこそクルードは伯爵家を潰すのはヴァイオレットたちに任せ、自分ができることをする。


 つまりは警備態勢の見直しだ。

 本来ならわざわざクルードが出しゃばる問題でもないが、それはそれ。自分が動いた方が早く終わるだろうという判断であった。あとはマリーとヴァイオレットにいいところを全て持っていかれるという危機感か。


「では、今現在の警備態勢について説明してもらおうか」


 その辺りについてはすでにアルバートから説明を受けているクルードであるが、現地の担当者から改めて話を聞くことにしたのだ。報告と実際では何か異なる可能性があるし、稟質魔法(リタット)で心を読めばシャーロットに対する悪意の有無を確認できるからだ。


 まずは商業ギルド長が滝のような汗を流しながら説明する。


「しょ、商業ギルドといたしましては、伯爵令嬢の店を『商売敵だ』と敵視することがないようギルド所属員に再三にわたって通告しております。また、旧友であるSランク冒険者・ガロンの店の近くに花屋を準備していただけましたので、いざというときにはガロンが伯爵令嬢を守ることができるでしょう」


 その辺の準備はアルバートが整えたのだろう。


 続いて、クルードはガロンに視線を移した。


「キミが黒猫亭とやらの店長かい?」


「おうよ――じゃなくて、そうです。元Sランク冒険者のガロンです。なにぶん卑しい生まれですので王太子殿下に無礼があるやもしれませんが」


「あぁ、その辺は気にしないから大丈夫だよ。……護衛をしてくれるとのことだが、あの暴漢が来たときは何かしてくれたのかな?」


「はははっ、これは手厳しい。ですが、俺はあくまで自分の店をやっている傍らでいいのならという条件でシャーロット――いや、伯爵令嬢の護衛を引き受けましたので。あの店の客として現れた女をどうこうすることはできません」


 未来の国王陛下から詰問を受けても平然とした様子で答えるガロン。さすがは元Sランク冒険者の胆力と言ったところか。


 ――こういう男は下手に媚を売ってくる連中より信頼できる。


 心を読んだ結果も問題なし。むしろ積極的に頼っていい人物だ。


 さっそく現地視察の成果を感じ取ったクルードは、警備担当の騎士団長に目を向けた。


「シャーロットの店舗の警備状況はどうなっているのかな?」


「はっ! 現在は近くの店に騎士一名が常駐し、即応できる体制を取っております! また、一時間に一度程度ではありますが巡回中の騎士が伯爵令嬢の店の前を確認する手はずとなっております!」


「なるほど」


 クルードとしては店の前に鎧装備の騎士を立たせておきたいのが本音。だが、彼らの本分は王都の警備警察活動であり、貴族令嬢の護衛ではない。あまり無茶を押しつけて王都の治安が悪化してしまうのも防がなければならないのだ。


 騎士団長が続いて店舗自体の警備態勢を説明し始める。


「あの店舗につきましては、レイガルド公爵閣下のご協力の下、万全の態勢を敷いております! まずは店舗のショーウィンドウ(ガラス)部分ですが、警報の魔術が施してありまして、何かありましたらこの魔導具が反応するようになっております!」


 あの店舗を準備したのはアルバートなのだから、彼が騎士団長と協力関係にあるのは当然か。


 騎士団長が取りだしたのは四角い箱に鐘がついたような形をした魔導具だった。あまり見慣れないものなのでついついクルードも興味を引かれてしまう。


「この魔導具はどんな風に反応を?」


「はっ! あの店舗のガラス部分に強い衝撃を受けますと警報音を発しつつ緑色に光ります! ガラスの破壊などがありましたら一段階上の警報音と共に赤く光ります! それを見て騎士が駆けつけることになっております!」


「なるほど、光って警報が――」


 クルードがその魔導具を凝視していたところで、けたたましい警報音が鳴り響いた。


 光り始めた魔導具の色は、赤。――ガラスの破壊などを知らせる警報だ。


 即座に騎士団長が反応する。


「っ! 殿下! 謁見中ではありますが、職務がありますので失礼いたします!」


「あぁ、急いでくれ」


「中座しますこと、平にご容赦いただきたく!」


 掛けだした騎士団長を見送ってからクルードはアルバートとカラックを交互に見た。


「さて。シャーロットであれば暴漢程度なら制圧できるだろうが、一応私たちも向かおうか」



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