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契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めました~  作者: 九條葉月


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報復?

「ヴァイオレット、ヴァイオレット、ヴァイオレット……よし」


 名前の素振り(?)をすること50回。だいぶ慣れてきた感じがするわね。


「シャーロットってお馬鹿さんなのかしら?」


「今さらの疑問ですわね」


 なんだか知らないけどヴァイオレットとマリーから批難されてしまった。なんで? ヴァイオレットの要求に応えるため頑張ったというのに……。


 首をかしげているとヴァイオレットは仕切り直しとばかりにティーカップをテーブルの上に置いた。


「さて。いつものシャーロットはとりあえず置いておくとしまして」


 いつものって何ですか?


「シャーロット。報復はいかがなされるおつもり?」


「ほーふく?」


「えぇ。報復」


「報復というと……「生徒会役員を務めた人間が平民に落ちるなど許せませんわ。大人しく報復を受けなさい」という感じですか?」


「なぜ被害者(シャーロット)に報復すると考えられるのですの? あの不躾な女のことですわよ」


「不躾な女というと――私のことですか?」


「違いますわ」


 ヴァイオレットは否定してくれたけど、不躾といえば私。批難されるといえば私。つまり友達というのは口から出任せで、実は学生時代から積もり積もった復讐をするつもりだった……?


「シャーロットは、友達であるわたくしの言葉を疑うのかしら?」


「! そうですよね! ふへへ、友達……。なるほど私は不躾ではない……」


「チョロい……」


「ちょろ?」


「いえ何も。不躾な女というのはあのアリスとかいうエセ貴族ですわ」


「エセって。確かに半分は庶民の血が流れていますが、ちゃんと王宮に申請をして承認された貴族ですよ? 申請の時に血縁鑑定書を添付しているはずですし」


 そもそも建国の時代にまで遡れば王と貴族も元庶民なのでは? 国を興した英雄と、それを支えた忠臣が王侯貴族になっただけで。


「わたくしが口にしているのは貴族としての振る舞いのことですわ」


「振る舞いっすか」


 貴族的な振る舞いに関しては私も偉そうなことを言えないから何とも。むしろアリスは偉ぶっている分テンプレな『お貴族様』なのでは?


「貴族とは、建国以来の貴い血を保つからこそ、厳しく自らを律し、万民の手本とならなければなりません。自らの名だけではなく家名(歴史)すらも背負って生きているのですから」


「おぉ……」


 木っ端伯爵令嬢では思いつきもしないような発言だった。かっけぇ……。貴族ってかっけぇ……。


「まったくあの女は不躾ですわ。誰かを虐げるならバレないようにしなくては」


「いや、虐げはするんですか?」


 思わず突っ込んでしまう私だった。


「口で言っても分からないお馬鹿さんには、身体で分からせる。これが躾の基本ですわ」


「躾って」


 こわい……。貴族ってこわい……。


 私の場合、アリスに対しては『父親が不倫した結果生まれた義妹』以上の感情は持っていないはずだけど、それでもなぜか同情してしまうのだった。だってヴァイオレットの躾ってマジやばそうだもの。肉体的にも精神的にもポッキリと折られそう。


 というわけで。なぜかアリスをフォローしてしまう私であった。


「い、いやいや、殴られただけですし? 自動回復(イルズィオン)で治りましたし? そんな大事(おおごと)にしなくてもいいかなー、なんて」


「優しさと甘さは違いますわよ?」


「いやこの場合は確実に優しさだと思います。人としての優しさ。姉としての優しさ……」


「扇子が折れるほどの力で殴られたのでしょう? 復讐したくはありませんの?」


「いやぁ、まぁ、アリスもはじめて(・・・・)で力加減が分からなかったんでしょうし」


「? はじめて、とは?」


「アリスから暴力を振るわれたのはあれが初めてですね。だからこそ扇子が折れるような、出血を伴うような加減を知らない(・・・・・・・)暴力になったのですし」


 例えば義母だったら『躾』をするときは服に隠れて分からないような場所を選ぶし、出血したり死に至るようなことはしない。どこで覚えたのか、アレはそういうことだけは得意だったのだ。


 まぁ、だからこそ。こっちもアリスからの暴力は初体験だったからこそ(・・・・・・・・・・)あそこまで動揺してしまったのだけどね。とうとうアリスもあの母親と一緒になってしまったかと……。


 そんな私を煽って復讐させようとしてくるリュヒト様、かなりいい性格をしているわよね。


 なにやらあの世界の片隅でリュヒト様が『我はお前のためを思ってだな!』と叫んだ気がするけれど、気のせいに決まっているので気にしないことにする。


「とにかく。アリスに関してはそこまで恨んではいませんから、報復など必要ありませんよ」


「……まぁ、友人であるシャーロットがそこまで言うのでしたら、こちらとしても動きませんが」


「……ふへ、ともだち」


 思わず頬が緩んでしまう私だった。


「チョロい……」


「ちょろ?」


「いえ何も?」


 しれっとした顔で再びティーカップを傾けるヴァイオレット様だった。




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