偉大なる空に輝く(略
そんなこんなでお茶会は続き。
「……シャーロット。お茶のおかわりをいただけるかしら?」
「はいはーい」
唯々諾々とヴァイオレット様のお茶を淹れる私。いやだって、こんなダブル公爵令嬢にお茶の準備をさせるわけにもいかないし、なぜか二人は従者やメイドを連れてこないので、私が給仕をするしかないじゃない?
ちなみにヴァイオレット様が『爺』と呼んでいた執事さんはさっさと消えてしまった。お茶の準備くらい手伝ってくれればいいのに。
しかし、店主がお客さんに頼まれてお茶を淹れるのはもうただの喫茶店なのでは……? 喫茶店に改装した方が儲かるのでは……?
「喫茶店ですか」
私の疑問は声に出ていたのかマリーが「う~ん」と店内を見渡す。
「落ち着いた雰囲気の内装。庶民であっても貴族が使うレベルのテーブルセットやティーセットを体験できる。紅茶は世界各地の品種を楽しめて、なによりもシャーロットの淹れるお茶は美味しい。……えぇ、喫茶店にした方が確実に儲かりますわね」
商会を運営するマリーからの辛辣な意見だった。今挙げた利点のうち、半分はマリーが原因なんですけど?
「ところでシャーロット」
足を組みながら私を睨め付けてくるヴァイオレット様。いや、これは睨んでいるわけではなく、単純にヴァイオレット様の目つきがキツいだけ……キツい、だけだよね? 私に対する批難の感情は込められてないよね? う~んちょっと自信がなくなってきたぞー?
「いつまでわたくしのことを『ヴァイオレット様』と呼ぶおつもり?」
「え? やっぱりマズかったですか?」
「当然よ」
「なるほどやはり無礼でしたか……。ではこれからは『偉大なる空に輝く太陽にして王国に咲く希望の大輪、ヴァイオレット・アルバラート公爵令嬢様』と――痛い!?」
思いっきり足を踏みつけられてしまった。ピンヒールで。まだ尊称が足りなかっただろうか? さすがは偉大なる空(中略)公爵令嬢様である。
ちなみに『公爵令嬢』だけでも敬称なので本来なら『様』を付ける必要はない。
と、私がそんなことを考えていると、
「――ヴァイオレット」
「え?」
「わたくしのことも、ヴァイオレットとお呼びなさい」
「え? え? でも、さすがに無礼では……?」
「マリーのことは呼び捨てにしているのに、なぜわたくしはダメですの?」
「いやぁマリーはお友達ですし……」
「……わたくしも、シャーロットの、お友達、でしょう?」
「お友達!?」
ぴっしゃーん! と私の背後に雷が走った! お友達! なんという甘美な響き! この前のお友達発言は幻聴じゃなかったのか!
マリーとサラさんに続いてヴァイオレット様からまでもお友達扱いしていただけるとは! これはもう私の時代が来ているのでは!? 鐘を鳴らせ! 祝杯をあげろ! シャーロット様はここにあり!
『大げさだなぁおい』
冷たくツッコミをするクロちゃんはまるで分かっていない。あのヴァイオレット様が! 国王陛下に対しても舌打ちをすると恐れられるヴァイオレット様が! 睨み付けただけで人を殺したことがあると噂されるヴァイオレット様が! こんな私をお友達扱いしてくださるのだ! これはもう革命! エボリューションなのだ!
『はいはい』
ことの重要性を理解したらしいクロちゃんを尻目に、深呼吸。なにせヴァイオレット様を呼び捨てにさせていただくのだ、並大抵の覚悟ではプレッシャーに押し負ける! あと失敗したら私の首が飛びそう! 物理的に!
「――う゛ぁ、う゛ぁ、ヴァイオレットォッ!」
言った。
呼んだ。
完璧。
かんっぺきな発音だったわ私。よくぞ成し遂げたわよ私……。
やり遂げた私はヴァイオレットたちが使っている隣のテーブルセットに力なく腰を下ろしたのだった。燃え尽きたよ、真っ白にな……。
「……マリー。わたくし、もうちょっと微笑ましいやり取りを想像していたのですけれど?」
「シャーロットの勘違いと、ヴァイオレットの普段の言動が相乗効果を発揮すればこんな感じになるのでは?」
「あら、ケンカを売っているなら買い取りいたしますわよ?」
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