そういうところだよ
「反応が薄いですわね……。なるほど、値段ではなくて真心を見せろと?」
なんか勝手に話が進んでいるし。まぁでも使いどころがない花瓶を送られるよりはたぶんマシなはず――
「――爺」
ヴァイオレット様がティーカップを受け皿に置くと、その音とほぼ同時に執事服姿の老人が現れた。いやどこから現れたんです? もしかしてずっと店内にいました? 気配とかまったくしなかったんですけど?
「羊皮紙とペンを」
「ははっ」
空間収納から巻かれた羊皮紙と羽根ペンを取り出す執事さん。ヴァイオレット様は一瞥すらせずにそれを受け取り、羊皮紙を開き、何か文字を書き始めた。
「――ではシャーロット。わたくしからの開店祝いですわ」
「あ、はぁ、ありがとうございます?」
羊皮紙を受け取り、中身を確認。
――ヴァイオレット・アルバラート公爵令嬢がこの店の品質を保証する。
と、書かれていた。仰々しい字体で。
ははぁ、なるほどなるほど。公爵令嬢であらせられるヴァイオレット様が品質を保証するというのは、この上ない宣伝になるものね。これは有難い開店祝いと言えるでしょう。
まぁ、庶民向けの花屋にヴァイオレット様の品質保証があったところで何の意味があるのかって話でもあるのだけど。その辺に気づかないあたりヴァイオレット様にも可愛らしいところがある――
…………。
……いや、ちょっと待てよ?
兎にも角にも腹が黒いヴァイオレット様がこんな凡ミスをするだろうか? そんな可愛らしいところがあるだろうか? あるいはなにか『裏』があるのでは?
「また失礼なことを考えている顔ですわね?」
ヴァイオレット様がじっとーっとした目で私を見据えてくるけれど、そんなバカな。ヴァイオレット様の腹が黒いのは貴族社会の常識だし、それなりに長い付き合いから確信を抱けた事実なのだから失礼も何もないでしょう。
しかし、となると、この羊皮紙には他に何か『裏』があるはず……。ヴァイオレット様がやりそうなことと言えば……。
文章を凝視。……小さな文字で余計な一文が書かれているわけではなし、と。昔それで酷い目に遭ったからね。
続いて、羊皮紙の枠に元々施されていた装飾を確認。……うん、模様に隠れて古代文字が記されているなんてこともなし。昔それで酷い目に遭ったからね。
最後に羊皮紙を持ち上げ、日の光を当ててみる。……うん、透かしが入っているわけでもなさそう。昔それで酷い目以下略。
「……先ほどから、何をしているのかしら?」
「いえ、あの腹黒いヴァイオレット様が善意でこんなことをしてくれるはずがありませんし。きっと何か『裏』があるのだろうと確認を――は!?」
ヴァイオレット様の右手がいつかのように私の脳天を掴んだ! アイアンクローの予感! これは何とか誤魔化して回避しなければ! 大丈夫よ私なら上手くやれる!
「よ、よく考えたらヴァイオレット様が私程度を騙すはずがありませんよね! 下々の者には目もくれず、そのくせ王家や上位貴族には嬉々として噛みつく狂犬令嬢――痛い痛い痛いっ!?」
事実を言っているだけなのになぜかアイアンクローをされてしまう私だった。解せぬ……。




