額縁作り
クロちゃんが喋り始めたのには驚いたけれど、その程度で私の猫愛は揺るぎはしない。――喋る猫。メルヘンチックでいいわよね。
『はいはい』
クロちゃんが同意してくれたのでこの問題はここまで。空間収納からドワルさんにもらった木材を取り出す。中庭に置いてあった廃材だ。
『何かするのか?』
「うん。額縁というか写真立てというか……そういう感じのを作ろうと思って」
『何か飾るのか?』
「うん、これ」
空間収納の中から一枚の銅貨を取りだして見せる。
『銅貨なんて飾ってどうするんだ?』
「ふっふ~ん! ただの銅貨じゃないわよ! なんと! これは! お花屋さんとして初めて稼いだお金なのだ!」
まぁつまりは殿下からいただいた銅貨である。なんかプレミアも付きそうじゃない? いや本当に殿下からいただいたものか証明できないからダメか。
『ふーん』
興味なさそうなクロちゃんだった。猫に小判ならぬ猫に銅貨。あ、でもお金を持つ猫って可愛いわよね。招き猫みたいで。
「……クロちゃん。ちょっと招き猫やってみない?」
『はぁ? なんだそりゃ?』
「お金を抱いた猫が手招きするとお客さんがやって来るのよ」
『なんだそれ? どこの迷信だよ?』
「迷信って」
偉い人が猫に手招きされて近づいたら落雷を回避できたという逸話なのに。……良く考えたら十分ファンタジーね。
クロちゃん招き猫化計画は乗り気じゃなさそうなので後回しにするとして。とりあえず額縁を作っちゃいましょうか。まずは木材の寸法を測って、切断して……。
…………。
木材を切るための! ノコギリがないじゃない!
『何で今さら気づくんだよ? 廃材をもらったときに気づけよ』
辛辣なクロちゃんの言葉に泣きそうになる私だった。
◇
「あ、そうだ。ここはリュヒト様っぽく物事を解決しましょう」
リュヒト様は風の魔法を使ってバラを切っていたし。私にもできる! はず!
「うへぇ、あの野郎か……」
なぜか嫌そうな顔をするクロちゃんだった。ふふふ、猫の嫌そうな顔を理解できる私、やはり猫好きレベルが高いわよね。
『はいはい』
「というわけでまずはペンで下書きをしてーっと。この線の通りに風の魔法で切断しましょうか」
棒状の木材を斜め四十五度で切断して、組み合わせれば四角い枠組みができるでしょう。たぶん。
下書きはできたのでさっそく風の魔法で切断を――
『にゃー』
すたこらさっさーっと距離を取るクロちゃんだった。私の活躍を余すことなく視界に収めるために遠くからの観戦を選んだらしい。
「よ~しじゃあ風魔法でスパーンっと――」
スパーンと。
切れた。
廃材が。
廃材を置いておいた、作業台ごと。真っ二つに。
ガシャーンと。斜め四十五度に切れてしまった作業台(右上)が床に落ちる。
「ふにゃあ!? 作業台がぁ!?」
できたばかりの作業台が! 夢だったお花屋さんの作業台が! まだお客さんがいなくて風解しか使っていない作業台が! 真っ二つに!
『……そりゃあ、そんなバカ高い魔力を後先考えずに使えばそうなるだろうよ』
「分かっていたなら止めてくれませんかね……?」
『いや、ずいぶんと自信満々の様子だったから、慣れているのかなーっと』
「慣れてなんかない……どころか、風の魔法を使ったのは初めてくらいかも?」
いや暑い日に扇風機代わりに使ったことはあるけど。そういえば切断目的では初めてだったかも? 魔物を倒すときは鱗や毛皮の防御力を無視できる雷撃魔法を使っちゃうし。
『初めて使ってこの威力というか、そもそも発動できるのがおかしいだろ……。おかしいだろこの女……』
二回もおかしいって言われた!?
もうちょっと傷心の少女を慰めるとかできないんですかね? 人の心とかないんか……? 猫だったわね……。
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