異世界の猫は――
ドワルさんと店長さんに荷車を引いてもらい、出来上がった看板をお店に運ぶ。
このまま二人が取り付けてくれるのかと思ったら、ちゃんとした大工さんを呼んでくれるらしい。素人仕事で看板が落ちてきたら大変だからと。なるほど。
大工さんは暇なときに来てくれるというので、あと数日は店先に立てかけておくことになった。
これにて看板製作は一応完了。
と、このままお別れするのはさすがに気が引けるので、サラさんたちを店内に案内した私である。
「素敵なお店ねぇ」
「ほぉ、これはこれは」
「嬢ちゃん。いい店じゃねぇか!」
店内を見渡すサラさん、店長、ドワルさんをテーブルセットに案内し、まずは紅茶を淹れる。
「あら美味しい」
「シャーロット、いい腕じゃねぇか! 暇なときはうちでバイトしな!」
「おぉ、紅茶は苦手だが、これなら飲めるな」
口々に褒められて照れてしまう私だった。……いや店長さんはただの勧誘かしら?
三人が紅茶を作っているうちに、お礼代わりの花束を作ってしまう。男性もいるのであまり大きなものではなく、部屋の隅にちょっと飾れる程度の大きさで。
やはりメインはバラ。ここはちょっと奮発して、青いバラを入れてあげる。……まぁ奮発も何もタダで手に入れたものだし、色味としては『青』というより『紫』の方が近いかもしれないけれど。
喝采という意味が込められた青いバラ。
その花言葉は、夢叶う。
夢を叶えた私から、皆さんへ。
もしも夢があるのなら、叶いますように。
そんな願いを込めつつ、花束を作らせていただいた。
長持ちするよう最後に状態保存の魔術を。カラック様からは使わないよう釘を刺されたけれど、この人たちなら大丈夫でしょう。
◇
三人が帰ったあと。
「さーって、最後の仕上げといきましょうか」
店から出て、立てかけてある看板の前に立った私は、状態保存の魔術を掛けることにした。あらかじめやっておけば風雨にさらされて劣化することもなくなるからね。
この看板は大きいから気合いを入れましょうか。と、私が肩を回したところで、
『――ほんと、自覚のねぇ女だな』
なにやら背後から――いや、背後の足元からそんな声が。
若い、男性の声?
訝しみながら振り返るも、誰もいない。
さらに足元へと視線を落とすと、そこにいたのはまだ年若い黒猫。クロちゃんだった。
声が聞こえた背後・足元にいるクロちゃん。まるでクロちゃんがあの声を発したみたいじゃない?
って、いやいや、そんなまさか。いくらここが剣と魔法のファンタジーな世界だからって……。
『あの男から注意されたのに、気軽にポンポンと……おまえはアホなのか?』
間違いなく。
目の前で。
クロちゃんが口を動かし、声を発していた。人間の声を。この国の公用語を。
ね、ね、猫が喋ったぁあ!?
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