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契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めました~  作者: 九條葉月


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看板作り・2


 結論としては押し負けた。タダで看板を作ってもらうことが決定。まぁいつかこの御恩は返しましょう。


 そんなことを考えているとサラさんが問いかけてきた。


「お店の名前は何にする?」


「あー、そっかぁ」


 看板を作るならまずお花屋さんの名前を決めないと。とはいえ『これにする!』と決めていた名前があるわけでもないし……。


 う~ん、どうしようかなぁ……。


「……そのものずばり『お花屋さん』というのはどうでしょう?」


「あなた自分の子供に『人間』って名前を付けるの?」


 即座に却下されてしまった。いやでも織田信長という人がいてですねー、自分の子供に『人』って名付けちゃった英雄なんですよー。


 いや、私程度と歴史上の偉人を比べても仕方なし。きっと信長には信長なりの考えがあったんでしょう。たぶん、きっと、おそらくは。


 凡百の人間である私は平々凡々としたお花屋さんらしい名前を付けなきゃダメか……。


 う~ん……。


 …………。


 ふと、思い出した名前があった。


「……じゃあ、『ロン・ポワン』で」


「ろんぽわん? 聞いたことのない言葉だけど、貴族言葉ってやつ?」


「まぁ、そんな感じですね」


 ロン・ポワン。

 フランスのパリ、凱旋門からシャンゼリゼ通りを繋ぐ環状交差点(ラウンドアバウト)のことだ。もちろんフランスだけあってただの交差点ではなく、周囲は四季の花が咲き誇る花壇と、マロニエの木々によって彩られている。


 ロン・ポワンのように美しい花が咲く場所。


 シャンゼリゼ通りのように様々な人々が行き交い、出会う場所。


 そんなお店になるように。ささやかな願いを込めた名前だ。


 ……なぁんて、ちょっとこだわりすぎかしらね?


「ロン・ポワン。いい名前じゃない。じゃあさっそく書いちゃいましょうか」


 ペンキのついた刷毛を手渡してくるサラさん。え、私が書く系ですか?


「あなた以外の誰が書くのよ?」


「むむむ……ドワルさんとか、店長さんとか……」


「悪いが嬢ちゃん」


「俺らは字が下手だ」


「……あぁ」


 何となく納得してしまう私だった。


「サラさんは……」


「友達に仕事と責任を押しつけるの?」


「ぬぐぐ」


 事ここに至っては是非も無し。


「ぬおぉおお!」


 一念通天。射石飲羽。


 もはや自己暗示で無敵となった私は一発で『ロン・ポワン』と書き上げたのだった!


 出来としては……うん、まぁ、こんなもんかといった感じ。ぶっつけ本番にしては良いんじゃない?


 書いたあとで「下書きすれば良かったじゃん」と思い出したのは絶対の秘密だ。墓場まで持って行ってやる。



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