看板作り
私を小脇に抱えたままズンズンと街をゆく店長さん。もはや半分あきらめ顔の私である。
『――ふしゃー!』
おお! クロちゃん!
どこからか現れたクロちゃんが店長さんの腕を引っ掻いてくれ、そのおかげでやっと自由の身になれた私であった。
…………。
……店長さん、引っかかれた、はずよね? なんか腕に傷一つできていないんですけど?
『にゃー……』
引っ掻いた感覚が人間のものじゃなかったのかドン引きするクロちゃんだった。一体どんな鍛え方をすれば猫の爪をはじき返せる皮膚と筋肉を手に入れられるのか。自動回復という訳でもなさそうだし。
「……やはり料理人はレッドベアを倒せるくらい鍛えないとダメなんですか?」
「おう? まぁ、人によるがな。倒せる料理人も多いんじゃないか?」
ランクAの魔物を? 料理人が? 倒せる? 怖いな異世界……。
ガクガクブルブルしている間にドワルさんのお店に到着。
「こんにちはー」
「おう嬢ちゃん! 今日は看板を作るんだったか!?」
「すみません、お手数おかけしてしまって……」
「なぁに、気にするな! 鉄ばかり打っていると飽きるからな! たまにはこういう工作をするのも悪くねぇ!」
看板作りが工作扱いだった。一応店舗に掲げるデッカい看板なんだけど……ドワーフ、スケールが大きいわ……。
ドワルさんの店の中を通って、裏庭へ。試し切りにでも使うのか木材が積み上げられていて、中にはいかにもな廃材も混じっている。
普段は洗い物をしたり洗濯物を干したりしているであろう裏庭の中心には、話通りに大きな板が準備してあった。
いや、大きいわね? 想像していた1.5倍くらい大きいわね? これ、普通に一枚板として買うとかなりお高いのでは?
「店長さん、これ、おいくらですか?」
「ハッ、ガキが妙なことを気にするんじゃねぇ!」
「いやいやガキとか関係ないですから」
「開店祝いだ! 気にせず持って行け!」
「開店祝いにしても高価すぎるのでは……?」
なんというか、のれんに腕押し。もう「くれてやる!」というのは決めているのか何を言っても「気にするな!」、「開店祝いだ!」で押し通そうとする店長さん。何でこんなに人の話を聞かないのかしらね?
『……にゃー』
まるで『人の話を聞かないって、お前が言うな』的な鳴き声を上げるクロちゃんだった。




