貴族の娘
「うぅ……おにくおいしい。オークおいしい。オークのくせに……」
オーク (生前)の姿を思い浮かべないようにしながらステーキを食べる私であった。くっ、霜降り。めっちゃ霜降りだわ。おのれはA5ランクの牛肉か! ……どちらかというと豚肉か。顔つきからして。
「なにかあったの?」
と、向かいの席でお食事中のサラさんが問いかけてきた。ちなみに彼女が食べているのはやはり肉。ステーキという言葉では表現しきれない、お肉の塊であった。
あの厚さ、ちゃんと火が通っているのかしら……?
不安になる私だけど、断面を見るにちゃんと火が通っているみたいだ。私の拳くらいの分厚さなのに。店長さんはどんな調理法を使っているのやら。
おっと、今はサラさんからの質問に答えなきゃね。
「義妹がやってきまして。ちょっと喧嘩になっちゃたのですよ」
「あー、じゃあ花屋の前に止まっていた邪魔な馬車はシャーロットの実家のやつだったんだ?」
「……ん~、まぁ、そうなりますねー」
ここで肯定しちゃうと私が(元)貴族だとバレてしまうのだけど……まぁ、いきなりこんな大きな店を持てたり、商業ギルド長が注意を促したりした時点で今さらだから頷いてしまう。
ちなみにマリーや殿下たちが来たときは邪魔にならないようちゃんと近くの車止めに馬車を停めていてくれるらしい。乗り降りするときや荷物を下ろすときだけ店の前に停めているだけで。
ちゃんと殿下たちは周囲の迷惑にならないよう配慮してくださっているのに、なぜあの子は気づかないのかしらね? 自分中心というか、周りが見えてないというか、貴族としての基本がなっていないというか……。
「となると、やっぱりシャーロットはお貴族様なんだ? これからは『シャーロット様』ってお呼びしましょうか?」
悪戯っ子のような笑みを浮かべながら聞いてくるサラさんだった。
「止めてくださいよ。今さらじゃないですか」
「うん、それもそうよね」
「……いや、でもそういうプレイがお好みですか? なんとまぁ、人の趣味を否定する気はありませんが、出会ったばかりの人に『様付け主従百合』プレイをお望みとは……」
「……よく意味は分からないけど、これは否定しておかないとヤバいってのは分かるわね」
サラさんがガシッと私の肩を掴み、懇々と説明してきた。
「いい? こうして一緒に食事をしているのだから、私とシャーロットはもう友達よ」
「……ともだち? ……えへ、ともだち、ともだち……」
「友達の身分が貴族であろうとなかろうと、関係ない。いいわね?」
「ともだち……えぇ! そうですね! 関係ないですよね! 私どうせ伯爵家を追放されちゃったんですし!」
「うへ、伯爵令嬢だったんだ……雲の上……」
「ちょっと、自分から関係ないと言っておきながらドン引きするの止めてくださいよ」
「いやだって、伯爵令嬢って言ったら中級貴族じゃない。頑張れば王族とも結婚できるらしいじゃない。シャーロットの言動からして騎士爵の娘か男爵令嬢くらいだと思ってたのに……」
「なんか失礼なことを言われているような?」
「あ、じゃあ『友達』ならこっちも伝えておきましょうか」
「はい?」
「私も、なんか貴族の娘らしいわよ?」




