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チョロい


 纏めておいた荷物を部屋から運び出したあと。

 店舗として準備された建物へは家令であるセバスさんが案内してくれるらしい。私としては契約も終わったのだから心苦しいのだけど、建物の権利書や鍵の受け渡しなどもあるというので大人しく馬車に乗った形だ。


 レイガルド公爵家が準備してくれた馬車。

 その車内には、なぜかマリー様が先に乗って待っていた。


「マリー様。体調は大丈夫なのですか?」


「えぇ。シャーロットがすぐお医者様に見せてくださいましたから、大丈夫ですわ。それにシャーロットとは少しお話がしたかったですし」


「まぁ、体調に問題がないのなら……」


 マリー様の顔色をうかがうけど、たしかに体調不良って感じはしない。馬車に乗っていれば何かあってもすぐに屋敷に戻れるのだから平気かなーっと私が考えていると、マリー様はなぜか不満そうに頬を膨らませた。


「不公平ですわ」


「ふ、不公平、ですか?」


「えぇ。わたくしは『シャーロット』と呼び捨てにしていますのに、シャーロットはわたくしのことを『マリー様』と。これでは不公平じゃないですか」


「……いえ、マリー様は公爵令嬢ですし。伯爵令嬢といいますか、伯爵令嬢でもなくなるだろう私が呼び捨てにするなど……」


 私としては当然の謙遜だったのだけど、マリー様が待ったを掛ける。


「伯爵令嬢ではなくなるとは、どういうことですの?」


「いえ、アルバート様から婚約破棄をされたとなれば、父は怒るでしょうし。『』伯爵家の恥だ!』と家から除名・追放されてしまうだろうと」


「…………、……お兄様には、相談しましたの?」


「いいえ? 変に気を遣わせて、契約の延期とかさせるのも悪いですし」


「……なんでそこで甘えないんですのぉ……」


 ガッデームとばかりに頭を抱えるマリー様だった。やはり体調が思わしくないのでは?


「まぁ、こちらとしても実家を頼るつもりはないですし、スパッと縁を切れるなら好都合といいますか」


「……そうですわね。あの(・・)伯爵家と縁を切れるのは好都合でしょう。あとはこちらが手を打てば……」


 ブツブツと何かを呟くマリー様だった。大丈夫です? 体調が芳しくないなら屋敷に戻ります?


「とにかく! わたくしのことも『マリー』と呼んでくださいませ!」


「いえ、そういうわけには……」


「……わたくしとシャーロットは、友達でしょう?」


 少し上目遣いで首をかしげられ、私の全身に衝撃が走った。


 友達!

 なんと甘美な響き!

 よく考えれば転生してから友達らしい友達もいなかったし! そうなると彼女は私の人生初のお友達ということになるのでは!? いや人生自体が二度目だけど!


「わ、分かりました! これからは『マリー』と呼ばせていただきます! ……ま、マリー」


「はい。改めてよろしくお願いいたしますわ、シャーロット」


 嬉しそうに微笑むマリーは、まさしく花がほころぶような可愛らしさだった。


「……変なところでチョロい。これは押せばいけるのでは……?」


 小声で何か呟くマリーだった。





「シャーロットには、わたくしの事業を手伝って欲しいと考えていますの」


「事業、ですか?」


「もちろんお花屋をやってもらっても構いません。ただ、一日のうち一時間とか、週に一回とかでもよろしいので、うちの商会の会計作業や書類仕事を手伝って欲しいと考えていますの。あ、期末はもう少しお時間をいただくかもしれませんけれど」


「はぁ、お手伝いですか……」


「はい。お花屋さんも軌道に乗るまで時間が掛かるでしょうし、副業収入はあってもいいかと」


「たしかにいきなり花屋一本でやっていくよりは安心ですけど……会計作業ともなればお金関係ですよね? 私なんかにやらせていいんですか?」


「むしろ、お友達(・・・)であるシャーロット以外の誰に任せられますの?」


「……ふへへ、お友達……。そ、そういうことならぜひお手伝いさせてください」


「チョロい……」


「ちょろ?」


「いえこちらの話です。では、詳しい雇用条件はまた後日打ち合わせいたしましょう。――店舗に着いたようですし」


 マリーの発言を見計らったかのようなタイミングで馬車は停止したのだった。




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[一言] このチョロインを口説き切れなかった兄・・・
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