なんという神算鬼謀!
「――ごほん。ごほん。ごほん!」
と、大きな大きな咳払いをしたのはクルード殿下。もしかしてホコリっぽかったですか? 開店したばかりなんですけど……。
私の心配を余所に殿下がアルバート様を睨み付ける。
「アルバート。抜け駆けは感心しないな。そうでなくても二年前に一度抜け駆けしているのだから」
「……殿下。あの女はどうしたのですか?」
「あぁ。何か喚きながら出て行ったよ」
「まさか見逃したと? シャーロットをこんな目に遭わせた女だというのに……。ずいぶんとお優しいことで」
「当然さ。今はそれよりも大切なことがあるからね」
今度はとうとう殿下まで私の前で膝を突いてしまった。王族が。王太子が。未来の国王が。なんだこれ? 新しい拷問ですか?
「シャーロット。キミさえ望めば、私の方から報復をすることも可能だが? あの女個人に対しても、伯爵に対しても。なんなら伯爵家そのものを――」
「あ、いえ、結構です」
「……なぜ?」
「いやだって、殿下に膝を突かせてしまっただけでも恐れ多いのに、その上さらにお願いをするなど……私の胃を殺すおつもりですか?」
「キミの胃がこの程度でどうにかなるとでも? じゃなくて、遠慮する必要はないんだよシャーロット。さぁ、たまには私に甘えてごらん?」
優しく。
優しく。
とても優しい声と笑顔で訴えかけてくる殿下。あの面倒くさがり屋で事なかれ主義ですぐに私やアルバート様に仕事を押しつけていた殿下がここまで押してくるということは……。
「ははーん、分かりましたよ? こうして伯爵家への叛意を口にさせることで、貴族に対する不敬罪を成立させて私を処刑するおつもりですね? なるほど、自分が生徒会長を務めていたときに役員だった人間が実家から追放されて平民になるだなんて許せないですものね。さっさと証拠隠滅に掛かりましたか。さすがは未来の国王陛下」
「……キミは私のことを何だと思っているのかな? あ、いや、止めておこう。考えなくてもいい。本音を知ると心が死にそうだからね」
なんか知らないけど自分の手で自分の目を覆い隠す殿下だった。この人もわりかし妙な言動をするのよね。
※これから一巻分終了まで執筆的に難しい描写が続きますので、更新頻度を下げさせていただきます。
たぶん一日二話~三話くらいになると思います。




