妹
「なんだか話が中断しちゃったけど」
一通り作業場を興味深く見渡してから。意外と真面目なカラックが話を元に戻そうとする。
「シャーロット嬢。これはお節介で忠告するけど、あの状態保存の魔術は使わない方がいい」
「え? そうなんですか?」
「うん。珍しい魔術だからね。色んな人の興味を引いてしまうだろう」
「魔導書に書いてあった普通の魔術だと思いますけど……?」
「う~ん、その魔導書にも興味があるけど、それはとりあえず置いておいて。魔術師というのは好奇心の塊だからね。余計なトラブルを避けたいのなら頷いてくれると嬉しいな」
「そうなんですか……分かりました」
「うんうん、素直に理解してくれて嬉しい――」
「つまりカラック様は、悪の魔導師団から私を守るためにやって来てくださったと? 殿下とアルバート様も味方であると? 自分の父の所属する魔導師団を裏切ってまで助言をしてくださるとは……何とお優しい」
「…………、…………、…………あぁ、うん。もうそれでいいや」
なぜか肩を落とすカラック様と、
「よしよし。カラックもずいぶん慣れてきたようだな」
「さすがは殿下の側近だ」
なぜかカラック様と肩を組む殿下とアルバート様だった。殿下はともかく、アルバート様ってそんなキャラでしたっけ?
珍しい光景だなーっと私が感心していると、再びドアベルが鳴った。
「お客さんですかね?」
作業場と店舗の間は普通の木製ドアだし、窓も付いていないので様子が分からないのだ。こっちでの作業中にお店の中が見えないのは不便だし、防犯的にも不用心だからあとで改装できないか聞いてみよう。ちょうど元の持ち主であるアルバート様もいるのだし。
「ちょっと対応してきますので、殿下たちはこちらでお待ちください。椅子もないので申し訳ありませんが……」
「あぁ、構わないよ。式典の時には一日中立ちっぱなしというのも珍しくないからね」
国王とか王太子って豪華な椅子に座っているイメージがあるけれど、よく考えれば立ちっぱなしの場面も多いわね。重要な祭礼のときとか、パレードで民衆に手を振っているときとか。
作業場に椅子やテーブルを置くわけにはいかないけど、奥の事務室は無駄に広いし、書類仕事は二階でやればいいから、来客用に改装してしまってもいいかもしれないわね。
……いや殿下が通わないならそんな必要もないけれど。あの殿下だからなぁ。暇を見つけては茶ぁしばきに来そうよね。
そんなことを考えながら私は店舗へと繋がるドアを開けた。
店の中にいたのは――義妹だった。
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