客が来ない
お店を始めてから、早数日。
お客さんは……ほとんどいない。
というか、お買い上げいただいたのは殿下だけだ。
ま、まぁ、まだまだ庶民の間にお花を買うという文化はないだろうし? 花の仕入れはタダみたいなものなんだから問題ないし? 想定の範囲内だし?
殿下も初日以外は来ていないし、常連と呼べるのはマリーくらい。……いや、彼女はお茶を飲みに来るだけで花を買わないのだからお客さんですらないのか。
いっそのことマリーからお茶代を徴収して……いやダメだ。お茶会に使っている茶葉はマリーからの贈り物なのだから。お金を取るのは筋が通らない。
あと、お茶代を徴収しだしたら本当の喫茶店になってしまうし。マリー相手だけで花屋としての収入を超えてしまうし。それはさすがにお花屋さんとしてのプライド(誕生から数日目)が許さなかった。
「どうしたものかしらねぇ……?」
今日も今日とてマリーとのお茶会を楽しみながら私は思わず声を漏らしてしまった。
「収入とすれば、わたくしの商会の手伝いだけで十分でしょう? たとえ花屋が大赤字でも」
容赦のないマリーさんだった。
「いやそれはそうなんだけど。やっぱりお花屋さんとして独り立ちしたいじゃない?」
そんなに難しいことは言っていないはずなのに、なぜかマリーは呆れ顔だ。
「……たとえば。花屋としての収入から原材料費などを引きまして。そこからさらに人一人が生きていけるだけの生活費をまかなうとしたら……大赤字ではありませんか?」
「ぐぅ」
「しかもシャーロットの場合は持ち家を店舗にしているので、家賃を払わなくていいこともお忘れなく。あとは人を雇っていないので人件費も必要ないですね。経営としてはかなり楽な部類ですわね。それなのにこの体たらくというのは……」
「ぬぐぐ」
しかも花の仕入れは実質タダだからなぁ……。え~っと生活費としては朝昼晩のご飯代。これは黒猫亭ですべて済ませているので自炊するよりは安くなっていると思う。無駄にしちゃう食材もないし。……けど、月換算にするとかなりの出費になるなぁ。
あとは近くに公衆浴場があったので、毎日の入浴費も引くとして……。いずれ服なども変えなきゃいけないからさらに出費がかさんで……。一日に花束を何個売れば……?
「……あれ? これ、お花屋さんだけでは生活できないのでは?」
「できないでしょうねぇ」
「世知辛し」
力なくテーブルに突っ伏す私だった。夢を叶えたあともお金は必要なのねー……。




