執務室で・3
――王宮。
自分のために用意された執務室で、この国の王太子・クルードは書類仕事に精を出していた。シャーロットからは遊んでばかりで女を口説くのが生きがいだと思われている彼だが、やるときはちゃんとやっているのだ。
もちろんというか何というか、やるべき仕事の一部は側近であるアルバートたちに投げてしまっているのだが……。シャーロットが知ったら「そういうところですよ?」と呆れそうな変化のなさである。良く言えば部下を上手く使っている。悪く言えば以下略。
そんなクルードの元へ、頼んでいた仕事を終えたらしいアルバートがやって来た。ついでとばかりにカラックも後ろに付いてきている。
このアルバート、相変わらずの美男子だ。クルードでさえ感心するほどなのだから、なるほど社交界において引く手あまたなのも頷ける話だ。
しかも素晴らしいのは顔だけではない。
仕事はシャーロット並みにできるし、シャーロットほどではないが悪意なく付き合ってくれている。シャーロットには及ばないとはいえ魔力総量も高く、高位の魔術師の証とされる『銀髪』は今日も光り輝いている。シャーロットの銀髪よりは輝きが弱く感じられるが。
「……何か失礼なことを考えていませんか?」
「いや別に?」
シャーロットの口癖を真似て答えるクルードであった。
口調こそふざけているが、本当に、失礼をしたつもりはない。ただ単にシャーロットというポンコツ勘違い女が優秀すぎるだけで。
シャーロットに『前世』の記憶があり、実質的に人生二度目であることを考えれば、そんな彼女と渡り合えるアルバートはやはり途轍もなく優秀なのだ。
「まあいいでしょう。いくつか確認いただきたい箇所が――おや?」
書類についての説明を始めようとしたアルバートが、ふと視線を執務机の脇に移した。目線の先にあるのは――花瓶に挿された花束。シャーロットの店で購入したものだ。
思いつきで大婆様(対外的には皇太后)宛ての贈り物として購入したが、いくら王太子とはいえそう簡単に皇太后との謁見は叶わないので、しばらくはこの執務室を華やかにすることだろう。
「あれ? こんな花ありましたっけ?」
カラックも気づいたらしく軽い調子でクルードに問いかける。
「あぁ。大婆様への贈り物にしようと思ったんだが、やはり最近はそう簡単に謁見できないようだ」
「あー、皇太后が『会った』というだけで、周りの貴族は噂しそうですもんね。ついにあの皇太后が次の国王を決めたぞーって感じに」
次の国王――王太子の地位には第一王子であるクルードが据えられている。が、皇太后が『第二王子に』と言えばすべてがひっくり返る。それだけの影響力を皇太后は有していた。
「うん。大婆様もそれを危惧しているんだろうね。丁寧なお手紙もいただいたよ」
「ふ~ん」
花にはさほど興味がなさそうなカラックだが、手持ち無沙汰なのか花束に近づいていった。




