ハサミ購入
「で? どんなもんが欲しいんだ?」
職人の顔になったドワルさんが確認してくる。
「ハサミは二種類欲しいです。切れ味が良くて頑丈なものと、剪定鋏を」
「切れ味が良くて頑丈とは贅沢な……で、もう一つの『せんてい鋏』ってのはなんだ?」
「あれご存じないですか?」
「少なくとも、俺は初めて聞いたな」
「う~ん」
剪定くらいあると思ったのだけど……。ちなみに『剪定鋏』だと長いのでプロは『剪定』と略して言うことが多い。
剪定。
その名の通り枝を切る『剪定』という作業をするための鋏だ。いちいちノコギリで切断していては時間が掛かるからね。細めの枝は剪定で切ってしまうのだ。
バラも一応木だからね。普通のハサミを使うよりは剪定を使った方がいいのだ。
しかし、まさか剪定で通じないとは……。あ、でも、前世の世界で剪定が初めて作られたのは1800年くらいのことだと聞いたことがあるし、こっちの世界だとまだ作られていない可能性もあるのか。
「よく分からんから、とりあえず描いてみてくれ」
イメージを絵で伝える客は多いのか、ドワルさんが紙とペンを差し出してきたので剪定の絵を描く。ハサミとしての下の刃は切るというより枝を支える『床』のような役割があり、切れ味もない。肉厚な上の刃で切断するという形だ。
そういうことを説明しながらイメージ図を描くと、ドワンさんも納得してくれたみたいだ。
「初めて見るハサミだが、面白そうだ。しばらく時間が掛かるが、構わんか?」
「う~ん、まぁ普通のハサミでも使えないことはないので、大丈夫ですよ」
「おいおい、そんな悲しそうな顔をするな。代わりと言っちゃ何だが普通のハサミはいいものをくれてやるよ」
ドワルさんが一旦店の奥に引っ込み、しばらくしてハサミを持ってきてくれた。
持ち手の部分までもが鉄で作られたハサミ。前世でいうと生け花の時に使われる『古流』のハサミに似ていた。
ドワルさんが小さな枝を持ってきてくれたので、さっそく試し切りをしてみる。太さは小指くらいあるので中々切るのに苦労しそうな――
「――うわっ」
なんというか、ぬるっ。ぬるっという感じで枝が切れてしまった。すっごい切れ味。このハサミがあれば剪定はいらないのでは?
「凄……。このハサミ、おいくらですか?」
「そうさなぁ。金貨一枚ってところか」
金貨一枚。前世で言えば10万円くらいか。職人が作ったものとはいえ、ハサミに出すのは躊躇する値段だ。
ふっふっふっ、しかし! 今の私はアルバート様との契約結婚のおかげで懐が温かいのだ! 店舗を借りるために貯めていたお金も使えるしね!
というわけで空間収納の中から金貨一枚を取りだした私であった。やはり良いものを買うときには躊躇してはいけないわよね。
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