クロちゃん
「……ぐっもーにん」
朝。朝日が眩しかったので仕方なく目を離す。まだ庶民向けに時計は普及していないので、今が何時なのかは分からない。たぶんお昼になれば時計台の鐘が鳴るんでしょうけど。
「……あれ? 眼鏡と髪紐が外してある?」
サイドチェストの上には折りたたまれた眼鏡と、畳まれた髪紐が。寝ぼけて外しちゃったとか? あれ昨日は眼鏡を外さずにベッドダイブしたんだっけ? よく覚えてないなぁ……。
あ、リュヒト様があの『世界』から出てきて外してくれた可能性もあるのか。なんかいつもすみません。
私が半分寝ぼけた頭でそんなことを考えていると、
『――にゃー』
開け放たれた窓枠に乗っていたのは昨日の黒猫ちゃん。
「あら猫ちゃん。ぐっもーにーん」
『にゃー?』
首をかしげる黒猫ちゃん。さすがに異世界で英語は通じなかったか。……私の発音がダメダメである可能性も否定できないけれど。
警戒しているのか黒猫ちゃんが部屋の中に入ってくる様子はない。ふっふっふっ、大丈夫よ猫ちゃん! 昨日の私が暴走したのは前世からの猫断ちが原因! だっこ&猫吸いによって必須栄養素を補充した私はあのときみたいに暴走したりはしないのよ!
『にゃー?』
なにやら『おいおい本当かよ、信じられねぇな』みたいな鳴き声を上げる黒猫ちゃんだった。
「そういえば、いつまでも『黒猫ちゃん』じゃアレね。お名前はあるのかしら?」
『にゃー……』
なにやら『猫に質問してどうするんだよ、このバカ女』みたいな鳴き声を上げる黒猫ちゃんだった。
「う~ん、猫に聞いても意味はないと? なら私が決めちゃっても平気よね?」
『にゃー……』
なにやら『マジかよ。コイツが考える名前とか大丈夫か……?』みたいな鳴き声以下略。
「そうねぇ……。じゃあ、クロちゃんなんてどう? ぴったりな名前じゃない?」
『……にゃあ』
なにやら『安直だが、ま、いいか。下手にこだわられてトンでもない名前を付けられても嫌だからな』みたいな以下略。




