一日目、終了
サラさんと店長さんに別れを告げて、自分のお店に戻る。
もーいいや。ご飯を食べて満足した私は、買い物は明日にすることにした。店長さんに鍛冶屋さんまで案内してもらえるみたいだし、帰り道に色々買えばいいじゃない。
店舗の階段を上り、居住部分があるという二階へ。そういえばまだ二階には立ち入ってなかったわね。
階段を上りきると短い通路に繋がっていて、通路の左右にそれぞれ一つずつ扉が付いていた。
とりあえず、右側の扉を開けてみる。
「お~」
結構広めの部屋だった。ただしワンフロア。キッチンやバスタブはなさそうだけど、まぁこの世界なら珍しいと言うほどではない。食事は近くの食堂や屋台で食べるか、一階の共同台所で作るのが普通らしいし。
お風呂に関しても浄化の魔法を使えば清潔を保てるものね。
…………。
……いや、でもやっぱりお風呂には入りたいわよね。できれば毎日。この近くに公衆浴場ってあるかしら? あとでサラさんに聞いてみようっと。
部屋の中にある家具はベッドとサイドチェストに、衣装タンスのみ。庶民向けならこの程度というか、ベッドがあるのだからかなり豪華と言えるのかもしれない。
ベッドの上に座ってみる私。やはりというか何というかスプリングはなし。でもお布団はいいものを準備してくれたのかそこそこ快適に眠れそうだった。
トイレはなさそうなので、たぶん一階のどこかに設置されているのだと思う。
ちなみに王都では上下水道が整備されているし、疫病防止のため建物一つにつき最低一つの水洗トイレの設置が義務化されているらしい。
建物とかは中世とか近世っぽい感じなのに、ちゃんと整備されている上下水道……。もしかしたら私の前にも転生者がいたのかもね。しかもかなりの権力者に。
転生者がいるなら誰か味噌と醤油を造っていてくれないかしら……? あぁでも発酵に使う菌がいるかどうかも分からないのか……。
いつか味噌と醤油も楽しみたいなぁと考えながら部屋を出て、今度は反対側、階段から見て左側のドアを開けてみる。
同じ間取り。同じ大きさ。
ここまで一緒だとたぶん元々は住み込みの従業員のために準備された部屋だったんでしょうね。つまりどっちを使っても変わらないと。
窓は庶民向けの店舗にしては珍しいガラス張り。たぶんこれを割っても騎士団に警報が行くんでしょうね。寝ぼけて割らないようにしなければ……。
窓にはカーテンが付いていなかったので、これも買いに行かないと――
「あぁ、まぁいいや。細かいことは明日考えよう」
結婚契約の終わりから、今まで。なんとも濃密な一日を過ごした私は部屋に入って一気に気が抜けたのか睡魔が襲いかかってきた。
「――浄化」
乙女としての最後の維持で身体を綺麗にしてからベッドにダイブ。数分もしないうちに私は意識を手放したのだった。




