紹介
パンとスープだけなので、それほど時間を掛けずに食事は終了した。
量自体は少なめだったどお腹はいっぱい。黒パンって固いから咀嚼回数が増えて腹持ちがいいらしいのよね。
驚くべきことにサラさんも私とほぼ同時に食べ終わっていた。あんなにも分厚いステーキなのに。固いすじ肉であるはずなのに。あの細い顎のどこにそれだけの筋肉が付いているのやら。
「ごちそうさまでした店長さん。これから通ってもいいですか?」
「おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか! いいぜ、ご近所さんなら割引してやるよ!」
「いえそういうわけには……」
「ばーか、ガキが遠慮するもんじゃねぇ!」
バンバンと背中を叩いてくる店長さん。前世だとセクハラになりかねない行為だけど、なぜか彼がやると不快感がないのが不思議だ。
と、店長さんが声のトーンを落とした。
「……どうしても気になるってなら、ときどきサラの話し相手になってくれよ。この辺だと同い年くらいの女は少ないからな」
「話し相手になるのは問題ないですけど……それだとなおさら値引きを受け入れるわけにはいきません。お金のためにサラさんと喋るみたいじゃないですか」
「……はははっ! それもそうか! 気に入った! ならこっちも値引きなしで料理を出してやるよ!」
「……ありがとうございます」
普通に考えれば損なのだけど。それでも嬉しくなってしまう私だった。だって『善意で値引きをしなきゃいけないガキ』から『一人の人間』として認められたってことだし。……考えすぎかな?
「あ、そうだ。この店のナイフってどこで買ったんですか?」
「ナイフ?」
「えぇ。サラさんがステーキを切っていたナイフです。筋ばかりだというのに簡単に切っていたみたいなので。うちの店で使うナイフもその職人さんに作ってもらいたいなーっとですね」
「花屋でナイフなんて使うのか?」
「お花はナイフで切った方が長持ちするんですよ」
「そんなもんか……。いいぜ、明日にでも連れて行ってやるよ」
「え、いいんですか? そんなお手数掛けさせるわけにも……」
「気にすんなって。俺もそろそろ包丁を手入れしてもらいたいところだったしな」
「そういうことなら遠慮なく」
「おう! ガキが遠慮するもんじゃないからな!」
また『ガキ』になってしまった。一人前になれるのはまだまだ先みたいだ。
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