実は冒険者
「あ、そうだ」
サラさんが思い出したかのように手を叩いた。
「商業ギルドに入っていれば色々な素材が手に入りやすくなるらしいわよ? 花を仕入れられるかどうかは知らないけど、何か使う資材があるのなら入会して損はないかもね。年会費とかはギルドの本部で聞いてみるといいわ」
「なるほど……。色々教えてくださりありがとうございますサラさん。冒険者ギルドにはそれなりに詳しいんですけど、商業ギルドに関してはまるで知識がないので助かりました」
私がお礼を言うと、サラさんが僅かに片眉を上げた。
「……冒険者ギルドに詳しいの? 見たところ良家のお嬢様って感じの立ち振る舞いだけど……。ご実家が冒険者ギルドと取引があったとか?」
「いえ、私はこれでも一応冒険者なので」
とはいえ剣を握って魔物と斬り結ぶような冒険者ではない。ダンジョンの浅い階層で小銭を稼ぐ系の木っ端冒険者だ。
貴族学園に入ってからは半分引退状態だったけど、伯爵家にいた頃は屋敷をこっそり抜け出して冒険していたのよね。いや私一人だけ別邸に押し込まれていたから『こっそり』も何もなかったけど。
私。冒険者。
見た目が『良家のお嬢様っぽい』らしい私が冒険者だというのは信じがたいのかサラさんは訝しげな顔だ。
「はぁ……その細腕で? あ、魔法使いなら腕が細くても問題ないとか?」
「はい。これでもそこそこの腕前ですよ? 魔法関係で困ったことがあったらお気軽にご相談ください」
「そう? じゃあその時は遠慮なく。庶民が魔法と関わることなんて滅多にないだろうけどね。頼れる人ができるのはいいことだわ」
ニカッと笑ったサラさんが親指で向かいの建物を指差した。王都にはよくある一階部分が店舗で、二階部分が住居になっている形式の建物。一階と二階の間の外壁に『黒猫亭』と書かれた看板が掲げられている。
黒猫ちゃんと、黒猫亭かぁ。もしかして黒猫ちゃんが縁を結んでくれたとか? なぁんて、メルヘンなことを考えてしまう私だった。
「さて、シャーロット。これからご近所さんになるんだもの。一食くらいごちそうするわよ?」
「え? そんな悪いですよ」
「若い子が変な遠慮するもんじゃないの。ほら、さっさと来る!」
「は、はぁい」
サラさんの押しの強さに思わず同意する私だった。いや『若い子』って。サラさんと私ってたぶん数歳しか違わないのでは?




