閑話 王太子クルード・3
――それでもいいか。
そう思えるくらいにはクルードはシャーロットのことを気に入っていた。クルードが『稟質魔法』を使って心を読んでも、それでも普通に接し続けてくれるシャーロットのことを……。
嘘と、
おべっかと、
欲望。
汚い汚い貴族たちの中で、クルードに嘘をつかず、取り入ろうともせず、何も求めなかったシャーロットという存在に彼がどれだけ救われたことか……。きっとシャーロットは気づいていないのだろう。
そんな彼女だからこそ惚れた。
そんな彼女だからこれからの人生も共に過ごしていきたい。
(……まったく。どうやって口説き落としたものか)
ライバルは多い。
国王陛下や大婆様も説得しなければならない。
なによりもあの聡明なる勘違い。
まさか真っ正面から求婚してもダメだったとは……。
およそ勝ち筋など見えないというのに……それでもクルードは頬が緩むのを止めることができなかった。
◇
店の前に戻ると、件のシャーロットは「にゃーん!」と叫びながら黒猫と対峙していた。
どうやら猫の可愛さに感情が爆発して魔力が漏れてしまったらしい――いや本当にそうか? それくらいで漏れるか? だがしかしシャーロットだからあり得るかと結論づけるクルードであった。
(しかし……)
シャーロットが猫の真似をするのは可愛いな、と考えてしまうクルードはかなり末期的であった。実際の美しさはともかく、今の彼女は野暮ったい三つ編みで、ビン底眼鏡で顔の半分程度が隠れている、およそ『美少女』とは言い表せない姿をしているというのに。
真面目にやれば騎士すら圧倒できるだろう身体強化魔法を使い、彼女は黒猫の後ろを取り、抱きしめ、頬ずりし、深呼吸(?)をした上で――頬を引っかかれていた。
女性の顔に傷が!
と、驚きもしないクルード。彼女の回復力は十分承知しているためだ。あれほどの回復力がなければ、今ごろ彼女の肉体には消えることのない傷跡が残されていたはずだ。
ただ、そのあと一応「先ほど猫に引っかかれていた傷は」と確認してしまったのは彼の善意がさせたのか。あるいは好いた女性の顔を凝視する機会が欲しかっただけか……。
もしもどちらかと聞かれれば、クルードはもちろん前者であると答えるだろう。
無論、嘘である。
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