贈り物
殿下が再浮上するまでの間に花束を作っちゃいましょうか。
花束と一言で言っても色々と種類があるのだけど……。今回は銅貨一枚の花束なので、こだわるにしても花の数が足りない。というわけで変にこだわらず普通に纏めてリボンで縛ってしまいましょう。リボンは以前町に出たときに安いものを買っておいたし。
メインとなる花はバラ。告白に使うならスタンダードに赤いバラにしておきましょうか。
ちなみに前世では色々と花言葉とかあったし、バラなら本数にも意味があったりしたけれど……この世界にはないのであまり気にする必要はない。
でも、やはり好きな人に送るなら赤いバラよね。殿下はお金持ちなんだから100万本買って欲しいわーうちの経営的にー。
こんなことを考えつつ冷蔵庫からバラの花やグリーン(緑色系の花材)などを取りだしていると殿下も復活したようだ。
「花束か。紅茶を淹れられることは知っていたが、花束まで作れるとはね」
「あら、生徒会室の花瓶にお花を生けていたのは私だったんですけど?」
「……そうだったのか」
どうやら気づいていなかったらしい。マイナスポイントである。
「ぐぅ」
また何かが胸に突き刺さったのか呻く殿下であった。
お、そうだ。
ここは殿下を元気付ける意味も込めて、鉄板ネタをやってしまいましょうか。
「殿下、殿下、ご覧ください」
「うん?」
殿下がこちらを向いたところで、バラの茎から葉っぱを取り、一本の棒のようにする。もちろん全部取ってしまっては光合成や蒸散ができなくなってしまうので、花瓶に挿したとき水に浸かる部分だけを取る。
そして、茎の上部、バラのトゲがないところを素手で握って――思い切り! バラを上に引く! これぞ前世の師匠直伝『素手でバラのトゲ一気に除去』よ!
「な、何をしているんだシャーロット!?」
バラのトゲによって手の肉が削がれたと思ったのか慌てる殿下。ふふふ、しかし甘い、甘いですよ殿下。前世から鍛えに鍛えた私の指の腹と手のひらはもはや鉄。バラのトゲ程度では傷つかないのです!
「前世の肉体は現世とは関係ないだろう!?」
「……あ、そうでした」
てへっと舌を出した私が手を見ると……あーらら、少し赤くなってしまっていた。でも大丈夫。スキル:自動回復ですぐに治ってしまったから。
「……シャーロットは、ほんとうに、退屈させない女性だね……」
なにやらずいぶんとお疲れのご様子な殿下だった。第二王子との王位継承権争いで疲れているのかしらね?
◇
さほど時間を掛けずに花束は完成。バラの花5本を段々に配置し、所々にグリーンを入れて空間を確保。数が少ないながらも『ふんわり』とした印象の花束となった。
「ほぉ、私にはさほど知識はないが、これは綺麗なものだね……」
そりゃあ、この世界って前世に比べればアレンジメントの進歩が数百年くらい遅れていますし。そんな時代から見れば他とは違う花束に見えるでしょう。
「うん、これなら大婆様もお気に召すだろう。ありがとうシャーロット。また頼むよ」
先ほどまでの落ち込みはどこに行ったのか。意気揚々と店を後にする殿下だった。
大婆様というと、何代か前の国王に嫁いだ『エルフ』の女性だっけ? つまりはクルード殿下のご先祖様。エルフなのでご存命。
…………。
……エルフであれば若々しい見た目のままかもしれないし……まさか、殿下の思い人って大婆様なのでは……?
なんだか殿下が「違うからね!?」と突っ込んだ気がするけれど、気のせいに決まっているので気にしないことにした。




