手強い女
「え?」
なにやら妙な展開になったなと私が首をかしげると、殿下はテーブルの上に身を乗り出し、遠慮することなく私の手を握ってきた。そして照れることもなく私の目を見つめてくる。この一連の流れ、手慣れている。めっちゃ手慣れている。これがこの国一番の女たらしと恐れられた人の実力か……。
「シャーロット。私はキミのことを気に入っている。どうか結婚を前提に付き合ってもらえないだろうか?」
「……わぁーお」
まさかの告白。
しかも結婚を前提にしてのお付き合いであった。
イケメンで、顔が良くて、まさしく『ヒーロー』とでも言うべき殿下が真っ直ぐに私を見つめてくる。夢のような光景だ。さすがの私も胸が高まってしまう。たぶん頬は赤く染まっているし、目も少し潤んでいるかもしれない。
…………。
ただなぁ。
あなた、そういう系の告白、今まで何人にしてきたんですかって話だ。
しかも。
学園にいた頃はすべての女子生徒にやっているんじゃないかって勢いで愛の言葉を囁き続けたくせに、私には今の今まで何もなし。学園にいた三年間と、卒業してからの二年間。出会って五年も経ってやっと口説いてくるって、私はどれだけ魅力がないのよ?
「い、いや! シャーロットは魅力的だ! ただ、その、魅力的だからこそお遊びでは口説けなかったというか……」
今まで数多の女性を落としてきた口説き文句が通用しなかったせいか慌てる殿下だった。いや、これまではお遊びで口説いていたんですか? サイテーじゃありません? 私の中の殿下株が垂直急降下した瞬間であった。……落ちるほど高くなかったんじゃないかって? ハハハ、そんなバカな。
「お、おぉう……」
脈無しと察したのかテーブルに額を打ち付ける殿下であった。何という分かり易い撃沈ポーズでしょう。
「な、なるほど。これはアルバートが二年使っても落とせないわけだ……」
その、アルバート様が私に惚れている設定ってまだ生きているんですか? ないでしょう。今をときめく公爵閣下と伯爵令嬢(平民予定)ですよ? とてもじゃないけど釣り合いませんって。
あと。
もしもアルバート様が私に惚れていたとして。
思い人と契約結婚して、二年も公爵邸で一緒に暮らして……。そんな状況で一度も手を出してこないなんてこと、あり得ます? あり得ないでしょう? つまり私はあくまで契約相手。アルバート様にとって都合のいい女でしかなかったのです。
「うわぁ、うわぁ、うわぁ……」
なぜか胸の前で十字を切り、神に祈るかのように天を見上げる殿下だった。いや室内なので視線の先にあるのは防犯カメラっぽい記録用魔石なんだけど。
ちなみにこの世界も国家宗教では十字架が使われている。やっぱり人を磔にするなら十字架が一番やりやすいのかしらね?
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