王太子殿下・2
(なんで殿下が? ……じゃなくて、)
近いうちに伯爵家を追放されて庶民になるであろう私とはいえ、王太子殿下とエンカウントしては貴族らしい畏まった態度を取らなければいけない。頭を下げ、ロングスカートの端をちょんとつまんでカーテシーの体勢を取る。
「王太子殿下におかれましては――」
「あぁ、シャーロット。そんな畏まった挨拶は不要だよ。ここは王城じゃなくて街の中なのだからね」
「はぁ……」
相変わらずの物言いに感心するやら呆れるやら。こんな木っ端貴族の私にも寛大な態度を取ってくださるのは素直に凄いと思うけど、未来の国王になられる御方がそんな身分制度を軽視する発言をするのはどうなんだろう?
たぶん今の私の顔は呆れが半分感心が半分くらいだと思う。いや若干呆れの方が多いかな? そんな私の態度など気にも留めずに殿下が白い歯を煌めかせる。
「それに、私とシャーロットの仲じゃないか」
ぎゃあ。
眩しくて目が潰れそう。
イケメン。
圧倒的なイケメンであった。普通の女子であればもうそれだけで胸を射貫かれていたんじゃないだろうか? 生徒会役員としての活動で見慣れていなかったら危なかった。
それにしても、殿下と私の仲ってなんだろう?
学園の同級生で、元生徒会役員仲間。……いやいや栄えある生徒会長であらせられた殿下と、生徒会の雑用係でしかなかった私では仲間扱いなど不遜に過ぎるというもの。むしろ生徒会長と珍妙なペットくらいの間柄じゃないだろうか? おぉ、我ながらいい表現かも。王太子殿下と木っ端伯爵令嬢なんてまさしく主人とペットくらいの差があるし。
「……シャーロットはまた妙なことを考えていないかい?」
「いえ別に?」
王子とペット。我ながらいい表現だと思う。そう考えてみれば何かと気に掛けていただけたのも、人間としてではなくて愛玩動物としてだと考えれば色々と合点がいくというもの。これからは『殿下のペットでした!』と名乗っていきましょうかね。
「うん、止めた方がいいかな?」
まるで心を読んだかのように止めてくる殿下だった。昔から妙に鋭いところがあるのよね。
しかし、なるほど。こんな私ではペット未満。殿下を満足させることもできなかったと。となるとペット以下の扱いとなるから……う~ん、奴隷とか? 私は殿下の奴隷でし――
「止めた方がいいかな?」
ぴしゃりと止めてくる殿下だった。よく考えてみればそれもそうよね。王太子殿下が奴隷を所有しているなんて外聞が悪すぎるもの。ふふふ、私は奴隷にすらなれない女……。
「……相変わらずで安心したような、心配のような……」
なぜかため息をつく殿下だった。




