王太子殿下
お茶とケーキでお腹を膨らませたマリーが帰ったあと。私はバラなどの水切りを済ませ、冷蔵庫の中に入れてみた。
「おー、いい感じ」
やはり切り花が所狭しと並んでいると『お花屋!』って感じがするわよね。……いやまだ弱いか。まだまだテーブルセットと茶葉入り木箱の圧が強すぎる。これをどうにかしないとお花が飾ってある喫茶店だ……。でもテーブルセットはマリーが毎日やって来そうだから片付けるわけにも行かないし……。
とりあえず、木箱だけでも店の奥に入れちゃいましょうか。
そう決意した私だけど、気がついた。この大きな木箱、どうやって移動させればいいの?
力があるだろう運搬人さんが二人がかりで運んでいた木箱。それが三つ。どう考えても非力な女性である私では移動することができない。
いや肉体強化魔法を使えば……いやいやダメだ。木箱を持ち上げられても、店舗と作業所を繋げるドアを通らない。店舗入り口は大型の鉢物の運搬を考慮しているのか大きめなのだけど……。
ちなみに作業場からの搬出は壁の一角に大きな扉がついていたのでそこから運び出すのだと思う。つまりは店舗を通らずに直接外に搬出できる形。……と、それはどうでもよくて。
どうしたものかなぁと悩んでいると、背後からドアチャイムの鳴る音が。店舗入り口ドアに鈴がついているのよね。
お客さん?
でもまだ看板も出していないし、ショーウィンドウ越しに店内を見たとしても、今はテーブルセットと木箱くらいしかないはず。そんなお店に入ってくるだなんて……。
またマリーかなぁと訝しみながら私が振り向くと――眩しかった。めっちゃキラキラしていた。光源を直視したせいで目が潰れるかと思った。
輝くような金髪。
輝くような瞳。
輝くような白い歯。
輝くような身体。……いや身体は別に輝いてはいないか。
ともかく、人間でありながら自ら光を発しているんじゃないかってくらいキラキラした青年が入り口に立っていた。
見覚えは――ある。
とてもある。
むしろこの国の貴族で知らない人っているのだろうか?
――王太子殿下。クルード・デ・バルトリア。
我が国の次期国王陛下候補であり、かつての私の同級生。生徒会では生徒会長を勤め上げられ、アルバート様とはボケとツッコミの関係であらせられた。もちろんアルバート様がツッコミである。




