マリー再来
まずはビニール袋をどうにかしないといけないけど……どうすればいいのだろう? 前世の世界は科学技術が発展していたものの、私には再現できるだけの技術や知識なんてない。
石油が原料なんだっけ? ビニールとプラスチックってどう違うの? いやそもそも石油の加工品なんて手に入れようがないか……。
あとはアルミホイルを使うとか? でもビニールもないのにアルミホイルなんてあるのかしら? 他に薄い金属は――ダメだ、金属に関する知識なんて無いに等しい。
とりあえずは革袋でなんとかするしかないかなぁ? この世界では水筒代わりに革袋を使うのが一般的だし。
ただ、革袋は使い捨てにするとなるとお高いのでその辺を何とかしないとね。
あとはハサミか。この感じだとナイフも使いづらいかもしれない。一度お店に戻ってから試してみて、ダメだったらセバスさんに連絡してみましょう。
バラの他にも何種類かの花を収穫し、空間収納に一時保管。あとは葉物などのグリーンも取っておいて……よし、こんなものでしょう。
「ではリュヒト様。今日のところはまたこれで。高貴な孤独をお楽しみください」
『……シャーロットは皮肉ではなく、本気で言っているのだろうな……』
小声で何か呟きながらため息をつくリュヒト様だった。邪魔者が帰ると知って安心しているのかしらね?
◇
花の世界から無事に戻り、早速バラなどの水切りをしようと準備していると――
「シャーロット! 遊びに来ましたよ!」
店舗の方からマリーの声が。いや遊びにって。さっき帰ったばかりじゃない。もしかしてあの世界にいると時間の流れがこちらと違ってくるとか? いやいやそんなわけないか。
開錠をした事務室から作業場へ。バケツの中に花を入れてから店舗に出る。
そこにいたのはやはりマリー。先ほどと同じ服を着ているので時間の流れも正常っぽい。貴族って同じ服を二日連続で着ることなんてないし。
「しゃ、シャーロット!? 何をしていますの!?」
私の姿を見るなりマリーは慌てた様子で近づいてきて、私の手を掴み、そのまま作業場の中へと引っ張り込んだ。二人きりとなった作業場で少し怖い顔をこちらに向けてくる。
「その髪! あと眼鏡! なぜ外していますの!?」
「髪……? あぁ」
リュヒト様に外されて、そのままだった。
そういえば返してもらってなかったなーと考えていると、怖い顔のままマリーが私の両肩を掴んだ。
「いいですかシャーロット。あなたの外見は注目を集めるのですから、そう簡単にあの眼鏡と髪紐を外してはいけませんわ」
「あ、はい。すみませんでした」
マリーの圧に負けて素直に謝ってしまう私だった。
「事務室に置きっ放しだから、ちょっと持ってきますね」
まだ怖い顔をしているマリーから逃げるように事務室へと戻り、開錠。リュヒト様から眼鏡と髪紐を返してもらってからマリーの元へ。
「お待たせしました。それで、マリーはどうしたんです? 何か忘れ物でも?」
「ですから、遊びに来たのですわ!」
当然でしょうとばかりに胸を張るマリーだった。
「いや遊びにって。さっき帰ったばかりでしょう? お店が始まったらまた来るって言っていませんでした?」
「わたくし思ったのですわ! このお店は殺風景すぎると!」
私のツッコミはスルーして話を進めるマリーだった。いや殺風景って。まだ切り花も鉢物も置いていないのだから当然でしょうに。
マリーの背後にはセバスさん。そして店舗の外には大型の荷馬車が。
「セバースッ!」
「ははっ!」
マリーが指を鳴らすとセバスさんは委細承知とばかりに店舗から出て、荷馬車に向かった。
荷台では運搬人が待機していたらしく、続々と馬車から荷物が下ろされていく。
あれは……テーブルに椅子? よく貴族が庭先でお茶会をするときに使うようなテーブルセット? それらが当然のように店内へと運び込まれ、設置されていく。しかも一つだけじゃなくて、三つも。
いや、邪魔だなぁ!? いくらこの店舗が広いとはいえ、本格的なテーブルセット×3は邪魔だなぁ!?
「お店に華やかさがないのなら、わたくしたちが『華』になればいいのですわ!」
上手いこと言った! とばかりに腕を組むマリーだった。いや華って。これから本物の花で華やかになるんですけど? 自分がお茶を飲んでいるだけで十分な『華』になると? いや確かにマリーはビックリするほどの美少女だけど、よくもまぁそこまでの自信を……。
リュヒト様といい、なんで私の周りには自信満々な人ばかりが集まってくるのやら。




