第93話 久しぶりの我が家
「それでは今日はご馳走さまでした」
「本当においしかったよ、ご馳走さま!」
「まあ、飯はうまかったぜ」
それからしばらく金色の黄昏団の3人、華奈と瑠奈の2人とダンジョンの話をしながら昼食を楽しんだ。みんな満足してくれたようで何よりだ。
また食事をする機会があったら、今度はちゃんと準備をしてもっとおいしい食材を準備するとしよう。
「それではヒゲダルマさん、お先に失礼します」
「またな」
「華奈ちゃん、瑠奈ちゃんもまたね!」
食事が終わり、今日は解散となった。みんな片付けを手伝ってくれると言ってくれたのだが、今回は俺が主催した会だし、丁重にお断りした。
とりあえずそのままマジックポーチに突っ込んでおいて、大宮ダンジョンの家に帰ってからゆっくりと片付けるとしよう。
「ああ、今回は本当に助かった。何かあったらいつでも言ってくれ」
「みなさん、本当にありがとうございました」
「那月さん、大和さん、零士さん、本当にありがとうね」
俺と華奈と瑠奈が見送る中、那月さんたちはセーフゾーンをあとにした。今回の件ではあの3人にはとてもお世話になった。何かあれば迷わず力になるとしよう。
「さあ、俺たちも帰るとするか」
セーフゾーンを綺麗に片づけてから俺たちもセーフゾーンを出る。この辺りのセーフゾーンは他の探索者も使うからな。ちゃんと綺麗にしておくとしよう。
……セーフゾーンで野菜を育てている俺が言えたことではないが、ちゃんと他の探索者や配信者が来る前には片付けるからそれはそれだ。
それにしても大宮ダンジョンの家に帰るのは久しぶりだ。帰ったらまずはゆっくりと休んで、それから横浜ダンジョンで手に入れた食材を楽しむとしよう。
「ヒゲさん、せっかくだからうちに寄っていかない?」
「そうですね、お昼はご馳走になってしまったので、晩ご飯は私たちが作りますよ!」
「………………」
昨日2人が作ってくれた朝食とお昼にもらった弁当はすごくおいしかったから、とても魅力的な提案だ。俺が作る料理も自画自賛ながらうまいにはうまいが、食材の旨さのおかげだからな。
色とりどりで見た目もよく、栄養がありそうな2人の作るご飯をいただくのも悪くはないのだが、さすがにこれ以上2人の家に行ってしまったら、リスナーさんたちの怒りが凄そうだからやめておこう……
それに今回は大丈夫だったけれど、2人はとても人気のあるアイドル配信者だ。さすがに俺みたいな男が2人の家に訪れたことがバレたら炎上してしまう。俺はネットにあまり詳しい方じゃないけれど、それがバレたらまずいことくらいは分かる。
「今回は遠慮しておくよ。俺もしばらくぶりに自分の家に帰ってゆっくりとしたいからな」
「そっか~残念……」
「残念です。それではまたの機会にぜひ来てくださいね!」
「……ああ、いただいたご飯はとてもおいしかったから、また機会があればよろしく頼むよ」
一瞬残念そうな顔をして、そのあと可愛らしい満面の笑顔の華奈を前にはっきりと断ることができなかった俺である。
「いやあ~久しぶりの我が家は良いな!」
そんなわけで、2人と別れて大宮ダンジョンにある我が家へと帰ってきた。ダンジョンにあるが、ここはもう俺の帰るべき家なのである。
さすがに何年もダンジョンの中で生活をしていれば、そんな気持ちにもなってしまうというものだ。
「とりあえず畑の野菜には水をやっておいたからまずは休むとしよう。これだけ長い間、この家から離れたのは本当に久しぶりだよな」
ダンジョン内では雨が降らないため、セーフゾーンで育てていた野菜には毎日水をあげていたが、1週間以上横浜ダンジョンを攻略していたり、マジックアイテムの効果によりずっと寝てしまっていた。
そのため、夜桜に調達してもらったダンジョンの外から持ち込んだ野菜は枯れてしまったが、無事に月面騎士さんの母親を助けることができたし、こればかりは仕方がない。それに半分以上は生き残っていたからな。
根菜系が結構残っていたのと、ダンジョン産の野菜は全部残っていた。仕組みはよく分からないが、なぜかダンジョンにある植物は水がなくても成長していくんだよ。
「……それにしても、この数か月でだいぶ環境が変わったな」
ベッドに寝転がりながら天井を見つめ、なんとなく物思いにふける。
これまではひっそりと少ないリスナーさん向けに限定配信をしていただけだったが、華奈と瑠奈を助けてからいろんな人に出会えた。まさかタヌ金さんと月面騎士さんにリアルで会うことになるとは思ってもいなかったからな。
それに金色の黄昏団の人にも出会えたし、チャンネル登録者がめちゃくちゃ増えた。まあ配信についてはあまり実感はないんだけれど。
「まずはゆっくりと休んで……ふああ~」
柔らかなベッドと、自分の家に帰ってきたという安心感から、すぐにまぶたが重くなりそのまま眠りについた。




