第90話 バーベキュー
「金色の黄昏団の皆さんのお名前は聞いております。別のダンジョンでの最高階層に到達した記録を持っておりますよね。一度お会いしたいと思っていました」
「いえ、運が良かっただけですよ。すでにその記録は抜かれておりますし、こちらにいるヒゲダルマさんの強さには到底敵いませんから」
「ううん、本当にすごいことだよ! 今日はいろいろとお話が聞けると思って楽しみにしていたんだ!」
どうやら那月さんたちは別のダンジョンでの最高階層到達記録を持っていたらしい。ダンジョン探索が効率化していき、武器や防具の加工方法などがだんだんと樹立していくとはいえ、それでも歴代の最高階層へ到達したというのはすごいことだ。
俺が何にも知らないだけで、那月さんたち金色の黄昏団は有名な探索者パーティだったらしい。そういえば初めて会った時も一般配信のリスナーさんがすぐに気付いて教えてくれた気がする。
「この度は天使の涙をヒゲダルマさんに譲ってくれて本当にありがとうございました。ヒゲダルマさんのご友人は私たちの命の恩人でもあったので、こうして直接お礼を言いたくて本日はお邪魔させてもらいました」
「本当にありがとうございました!」
華奈と瑠奈が改めて金色の黄昏団の3人に頭を下げる。月面騎士さんは華奈と瑠奈が虹野に襲われていた時にそれを教えてくれた命の恩人でもある。
「いいっていいて! 僕たちもその分のお礼は十分過ぎるほどヒゲダルマさんからもらったからさ! それにこうしてツインズチャンネルの2人に直接会えて本当にラッキーだよ。あっ、せっかくなら握手してもらってもいい?」
「はい、もちろんです。私も有名な皆さんとお会いできて光栄です」
「僕も僕も!」
那月さんと零士さんが2人と握手をする。意外とダンジョン探索者とダンジョン配信者というのはあまり接点がないらしいから、こういう機会は貴重なのだろう。
「ほら、せっかくなら大和も握手してもらいなよ」
「……けっ、握手なんてしねえよ」
「まったく~ごめんね、華奈ちゃん、瑠奈ちゃん。こいつこんな格好をしているのに女性には全然免役なくてさ」
「……っ!? 零士、てめえ!」
「ほら、ムキになって怒ったでしょ」
「てめえ、ぶっ飛ばす!」
「うわっ!? ちょっ、待って!」
どうやら大和さんは女性にあまり免疫がないらしい。身長も高くてぶっきらぼうだけれど優しいから女性にモテそうだと思っていたけれどな。
ここはセーフゾーンだが、モンスターが寄ってこれないだけで普通に探索者同士の攻撃は普通に通る。
さて、お互いの挨拶も終わったことだし、さっそく始めるとしよう。
「それじゃあ早速だけれどご飯にしよう」
お昼時に会うということだったので、みんなにはせっかくならお昼をご馳走すると事前に伝えておいた。そのため、俺は昨日からコツコツと準備を整えておいたのだ。
「ヒゲさん、頼まれていたテーブルと椅子は持ってきたよ」
「ありがとうな、瑠奈」
様々な食材については今回横浜ダンジョンへ来る際に交渉時で使う可能性もあると思ってマジックポーチに入れて持ってきていたのだが、テーブルや椅子なんかは俺の分しか持ってきていないからな。
……そもそもダンジョンにひとりで暮らしていた俺がそんなに大きなテーブルや多くの椅子なんかは持っているはずがない。華奈と瑠奈に頼んで、人数分のアウトドア用のテーブルと椅子や食器などを買ってきてもらった。
「セーフゾーンとはいえ、なかなか大胆ですね……」
リーダーの那月さんがそういうのも無理はない。いくら19階層のセーフゾーンの中とはいえ、大勢でバーベキューをするのは俺も初めてだ。2人に買ってきてもらったテーブルと椅子をセットする。
すでに炭に火を付けて、食材もバーベキュー用に一口大に切ってご飯も炊いてある。華奈と瑠奈に手伝ってもらって食器などを配ってもらった。
「今日は来てくれてありがとう。食材はまだまだあるから、いくらでも食べてくれ。それじゃあ、乾杯」
「「「乾杯!」」」
カンッとグラスの鳴る音がしてバーベキューが始まった。
「うわっ、この果汁のジュースは美味しいね!」
「ダンジョン産の果物を絞った果汁100パーセントのジュースだからな」
飲み物は普段俺が飲んでいる水と果汁のジュースがある。俺は普段ダンジョンの中で酒は飲まないからお酒は用意していない。2人に買ってきてもらおうとも思ったが、2人は20歳未満なのでお酒を買うことができなかったようだ。
「バーベキューと言えばまずは肉だよな。今回は ブラックドラゴン、ベヒーモスの変異種の肉のいろんな部位を用意してあるからぜひ楽しんでくれ」
「こ、これはまたすごい食材ですね……」
「ひええ~食べたことがない食材ばっかりだよ……」
「……さすがにベヒーモスの変異種の肉は食ったことがねえな」
どうやら金色の黄昏団のみんなも食べたことがない食材のようだな。だけどもう少し時間があれば、大宮ダンジョンの深い階層でもっとうまい食材をいろいろと準備ができたのは少しだけ残念だ。




