第84話 朝食
「とりあえず状況はよく分かった。いろいろと迷惑をかけてすまなかったな」
華奈と瑠奈に頭を下げる。緊急事態だったとはいえ、年頃の女性2人が暮らしているマンションで4日間も眠りこけていたとはな。
「ううん、全然大丈夫だよ」
「はい! むしろこちらの方こそありがとうございました!」
「いや、ありがとうはこちらのセリフなんだが……」
何がありがとうなのだろう? 華奈の方もいろいろと混乱しているのかもしれない。
「ヒゲさん、先にシャワーへ入ったらどう? 髭とかすごいことになっているよ」
「……そういえば、最近髭を剃っていないから、すごいことになっているな。それに横浜ダンジョンへ入ってから一度もシャワーすら浴びていないから臭いも酷い。だけどさすがにそこまで世話になるのは悪いから、すぐにお暇させてもらおう」
「そんなの今更だし、全然気にしないでいいよ。ヒゲさんも早くさっぱりしたいでしょ?」
「………………」
確かに瑠奈の言う通り、2人の部屋にまで上げてもらって今更か。ダンジョンを攻略している時や病院で月面騎士さんに付き添っていた時はそれどころじゃなくて気にならなかったが、今になるとものすごく不快で一刻も早くシャワーを浴びたい。
一応ダンジョンから出たマジックアイテムで強力な消臭スプレーみたいなものはあるのだが、不快感が消えるわけではないからな。
「……それじゃあお言葉に甘えてシャワーだけ貸してもらうよ。それとこのベッドのシーツも汗臭くなっているだろうからクリーニング代とかもちゃんと出させてもらうからな」
「いえ、本当に気にしないで大丈夫ですから!」
華奈は力強くそう言うが、さすがにそういうわけにもいかない。むしろこういう時はベッドごと新品の物を買ってあげた方がいいかもしれない。
「ああ~生き返る!」
1週間ぶりに浴びるシャワーは本当に最高の気分だった。月面騎士さんの母親のその後も順調という連絡をもらっていて、心配事も綺麗さっぱりなくなったということも大きい。
ちなみにダンジョンの洞窟内の自宅ではマジックアイテムを使用したシャワーがあるし、ダンジョン内には温泉もあったりするのである。
「ありがとう、とても気持ち良かったよ」
「はい! やっぱりヒゲダルマさんはそちらの方が良いと思います!」
「うわっ、すごくサッパリしているね!」
服はマジックポーチに入れていたものに着替えて、髭の方もちゃんと剃っておいた。おかげでとてもサッパリすることができたな。
華奈と瑠奈の方は俺がシャワーを浴びている間にパジャマから私服に着替えていた。……シャワーを浴びて冷静になったが、2人のパジャマ姿は結構な破壊力があったな。俺だからなんとか耐えることができたが、普通の男だったらやばかっただろう。
「本当に簡単なものですが、朝食を用意しているので一緒に食べましょう」
「……ああ、なにからなにまで本当にすまないな」
もうここまで来たら、最後までお世話になるとしよう。台所からはとても良い香りが漂ってくるし、ずっと寝ていたこともあってもうお腹がペコペコだ。
「うん、うまい! 身体中に染みわたるぞ!」
「大袈裟だよ、ヒゲさん」
「ふふ、そうですね。早く作るのを優先しましたから、簡単な料理しかありませんよ」
3人でテーブルに座って華奈と瑠奈が作ってくれた朝食をみんなで食べている。
「いや、俺も料理は作るけれど、普段ここまでいろいろと作らないからな。それにこういった純粋な和風の朝食を食べるのは久しぶりなんだ」
2人が用意してくれた朝食はご飯、味噌汁、漬物、卵焼き、魚の干物、おひたしというザ・日本の朝食といったものだった。
俺も普段料理はするが、だいたい作るのはご飯とおかずが1~2品といったことが多いからな。こういう朝食を食べるのは久しぶりだ。
「気に入っていただけて良かったです。ヒゲダルマさんはしばらく寝ていたので、消化の良さそうな和食にしてみました」
どうやら俺の体調にも気遣ってくれたらしい。本当に2人とも気遣いができて良い子だ。
2人ともいいお嫁さんになるんだろうな……と呟こうとしたが止めておいた。最近ではそういうのもセクハラになるのである。
「……なんだかいろいろとニュースになっているな」
「ええ。やはりダンジョンの50階層レベルを15分もかからずに倒すのは日本のトップレベルの探索者でも相当難しいですからね」
「それにヒゲさんの場合はソロだからね。そもそもソロで50階層まで行ける探索者ってヒゲさんだけだと思うよ」
朝食を食べ終わってお茶をいただきながら2人と話をしている。
テレビでダンジョン関連のニュースを見ていると、俺のことが話題となっていた。
俺が子供のころからダンジョンのニュースはやっていて、それをたまに見ていたものだが、まさか自分がニュースへ出ることになるとは思ってもいなかったぞ。




