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第8話 華のある配信者


 俺の古参のリスナーさんもそうだが、俺はリスナーさんには本当に恵まれていると思う。もちろん最初の頃は俺も弱かったから、リスナーさんにボロクソなコメントをもらったり、最近でも釣り動画乙みたいなコメントをもらうこともある。


 だけど大半のリスナーさんはとても優しく、ド素人の俺にたくさんのアドバイスをくれた。それこそみんながいなければ、もう俺はとっくに死んでいるだろう。


 前はこのダンジョンの中で生き延びるだけで精一杯だったから余裕はなかったが、今では先ほどのハイポーションなどの貴重なアイテムなんかもいくつか手に入れた。


 そのため今の彼女たちと同じく、お世話になったリスナーさんへお礼をしたいと伝えたのだが、みんなに断られてしまった。あの頃の俺は若干人間不信になっていたから、リスナーのみんなにはだいぶ救われたものだ。


「えっと、それでヒゲダルマさん。もし差し支えなければ、さっきのポーションがなんなのか聞いてもいいですか?」


「そうそう! あれだけの傷を一気に治すポーションなんて見たことないよ! ほら、さっきまでお腹どころか内臓まで出ちゃってたのが、もうすっかり元通りだよ!」


「ちょっと、瑠奈!? はしたないわよ!」


「………………」


 そう言いながら、瑠奈は先ほどベヒーモスにボロボロにされた防具の代わりに着ていた自分の上着をめくって、傷ひとつないお腹を見せてくる。細身のお腹に可愛らしいおへそが見えた。


 どうやらこの子は羞恥心がだいぶ薄いらしいな。一応俺も男なんだが……


”これこれ、こういうのがほしかったんだよ。やっぱり若い女の子が映る配信って素晴らしい! @たんたんタヌキの金”

”瑠奈ちゃんか……ファンになりました! @†通りすがりのキャンパー†”

”チャンネル名を知っているだけで、実際に見たのはこれが初めてだな。好きです、結婚してください! @月面騎士”

”男って本当に……でも2人とも本当に可愛いわね! @WAKABA”


 ……すでにうちのチャンネルのリスナーさんが心を奪われている気がする。う~ん、華のある配信者ってこういう女の子たちのことを言うんだな。そりゃヒゲ面男の配信に人気が出るわけがないか。


 いいんだ、別に俺は配信者として成功したいわけじゃないから!


「これはハイポーションだ。多分配信者ならポーションくらいは持っているだろ。これはその上位版だ。もっと深い階層まで行けば稀にだが出てくるようになるぞ」


「やっぱり! 僕実物は初めて見たよ!」


「あ、あれがそうだったんですね。すみません、そんなに高価なものを……あの、そちらの分のお礼もさせてください!」


「気になくていい。それも契約の範囲内だ。おかげでイレギュラーのベヒーモスが手に入った。どんな味がするのか、今から楽しみだぜ」


「確かベヒーモスって高級食材だよね。他のダンジョンの前線で出てくるモンスターって聞いたことがあるよ」


「この大宮ダンジョンでももう少しで出てくるぞ。確か40階層とかだっけかな」


「えっ……あんなモンスターが出てくるの?」


「出てくるのは普通のやつだから大丈夫だ。今回のイレギュラーは普通のやつよりも一回り大きかった気がするな」


「あと、肌の色や角の形も少し違っていたと思います。私が画像で見たベヒーモスの角とは違って、大きくてねじれていました」


「そういえばそうだった。よく見ていたな」


「い、いえ!」


 最近は探索者間でのダンジョンに出てくるモンスター情報の共有は速い。モンスターの情報があるかないかによって生存率はだいぶ変わる。姉の方はしっかりと勉強しているようだ。


「……やっぱりヒゲダルマさんはこのダンジョンでとても深いところまで攻略しているんですね」


 まあ、普通に気付くよな。どうやらこの2人は40階層でベヒーモスが出現することを知らなかったみたいだし。


「そうだな、詳細は言わないが、このダンジョンのかなり奥まで攻略しているよ」


「でもどうしてそのことを発表しないの? ダンジョンの情報を提供すれば、お金がたくさんもらえるし、有名になれるのに」


「ちょっと、瑠奈!」


「ああ、別に大丈夫だ。実はこのダンジョンで探索者をする前に外でいろいろあってな。お金とか人間関係とかが嫌になって、ずっとダンジョンに引きこもっているんだ。もう数年になったか……それでまあ最初のころは死ぬ気でダンジョンを攻略していたから、知らないうちに強くなっていたみたいだ」


 ぶっちゃけ最初は本当に死ぬ気でダンジョンに入ったんだよな。あの頃の俺は本気で無茶をしていた。今こうして生きているのが本当に信じられないくらいだ。


「えっと……その、いろいろと大丈夫なんですか?」


「両親はだいぶ前に病気で亡くしたからな。それに帰る家は……いろいろあって、今はもうないから大丈夫だ」


「「ええっ!」」


 そう、今の俺はいろいろとあって帰る家がないのだ。住所があるうちに探索者としての登録をしておいて本当に良かったと思う。下手をすればダンジョンに入ることすらもできなくて詰んでいたところだ。


”今明かされるヒゲダルマの衝撃の事実! ワイはとっくに知っていたけれどw @†通りすがりのキャンパー†”

”あの頃のヒゲダルマさんは本当に命を捨てているみたいだったものね。 @WAKABA”

"探索者という仕事がなければ、住所不定、無職、不審者のトリプル役満だったな! @たんたんタヌキの金"


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