第77話 デュラハン
ボスモンスターの観察を終え、一般配信のコメント通知機能をオフにする。40階層のボスモンスターとの戦いもそうだったが、ボスモンスターをソロで相手にする時はコメントを見ている暇はない。
さすがにこの辺りの階層のボスモンスターともなると一瞬たりとも油断はできない。
「………………」
大広間へ向けて一歩を踏み出す。それと同時に撤退用のゲートがある小さな部屋の門が閉じ、先ほどまで微動だにしなかったデュラハンが無言のままゆっくりと動き出して右手で剣を抜いた。
その剣はデュラハンにとっては普通のサイズなのだろうが、体長が3メートルもあるので、俺が構えている白牙一文字よりも大きい。左手で頭を抱えているため、右手一本でそのロングソードを持っている。
「さて、いくぞ!」
まずはボスモンスターの動きをしっかりと見極める。時間が限られているとはいえ、これから何度もこのボスモンスターを周回することになるわけだし、多少の時間を使ってでもこのデュラハンの動きを覚えることが先決だ。
「………………」
無言で近付いてくるデュラハンだったが、俺が一定の距離に近付くといきなりその巨大なロングソードを振り上げて襲い掛かってきた。
「……力はあるが、まだ受け止められそうだな。先ほどまでの動きから一気にスピードを上げたようだが、これなら十分に捉えられる」
デュラハンがロングソードを正面から振り下ろしてきたので、身体を横にずらしつつ白牙一文字でその斬撃を受ける。
これまでこのダンジョンで出会ってきたどのモンスターよりも速い動きで力もある。力もその巨体通り片手での一撃の割にかなりの威力だ。さすがにこのレベルの一撃となると、いくらダンジョンで多くの経験値を積んだ俺でも、無防備で受ければ大ダメージを受けること間違いなしだ。
ロングソードの強度もかなりありそうだ。大抵の武器ならば、白牙一文字の前に一撃でへし折れてしまうのだけれどな。
「………………」
続けざまに今度はロングソードで横薙ぎの斬撃を繰り出すがそれも白牙一文字で正面から受け止める。片手とは思えない一撃だが、おかしな特殊能力なんかもないし、今のところは問題なく受け止められそうだ。
今度はこちらから攻撃を繰り出す。デュラハンからのカウンターを警戒して少し抑えた攻撃だが、それでもデュラハンの防御をすり抜け、デュラハンの鎧で防御された左足へと攻撃が入る。
「あまり大きなダメージはなさそうか。だけどこちらの大剣は問題ないし、鎧は凹んで多少のダメージは入っていそうだ」
配信をしている時の癖ではないが、モンスターと戦闘を行う時は自分でも再確認をするように呟いてしまうんだよな。
ダンジョンのボスモンスターはゲームのように体力ゲージなんかがあるわけではないため、ひたすら足や手を攻撃し続けたとしてもボスモンスターを倒せるわけではない。反対に首などの弱点を突いて重い一撃を与えればたったの一撃で倒すことも可能となる。
少しずつ攻撃を加えて削っていく方法が一般的なボスモンスター戦となるのだが、そんな悠長に攻略をしている暇はない。となると怪しいのはやはり左腕に抱えたデュラハンの頭だろう。
抱えている頭は兜をかぶっているとはいえ、両目の部分は空いている。あそこに一撃を加えるか、兜ごと頭を叩き潰す一撃を加えたいところだ。
「……さすがにそこは重点的に守ってくるか。だけど頭をかばうということは弱点である可能性が高いな」
そうやらスピードは俺の方が上らしく、大広間を猛スピードで駆けながらフェイントを交えつつデュラハンが左腕で抱えている頭を狙って攻撃を加えていく。
しかしデュラハンの方もスピードはついてこれないまでも、反応はできているので、俺の頭への攻撃はギリギリでさばかれた。
高速で動いて後ろの死角から攻撃を加えようともしたのだが、人間のように背後を振り向くことなく、自分の左腕に抱えた頭の向きを変えるだけで後ろを見えるのはちょっとずるい。
その分左腕が常に使えないのは弱点でもあるがな。これで頭がないくせに全方位が見えて2刀流とかだったらさすがにチートすぎるところだった。
「胴体や手足なんかは大したダメージにはならずか……この大剣が通らないとは武器だけじゃなく、鎧の方もかなり硬いもののようだな」
先ほどから多少は白牙一文字の攻撃が当たっているのだが、そこまで大したダメージを与えられていない反応だ。元々このモンスターの反応が薄いというのもあるが、それでもあまりダメージが与えられていない気がする。
鎧自体は少し凹んでいるが、たぶん中身にはそれほどダメージが入っていないと思われる。
今のところこちらの白牙一文字は刃こぼれひとつしていないように見えるが、斬ることができない鎧を斬り続けてもあまり意味がない気がする。
「……だけどいくつか有効そうな攻撃方法はありそうだな。よし、そろそろ本格的に仕掛けるぞ!」




