第70話 10階層のボス
ゲートを通ると四角くて狭い部屋へと転移した。後ろには先ほど通ってきたゲートがあり、ここを通ればダンジョンの入り口まで戻ることができる。
そして目の前には大きな門がある。ここを通るといよいよボスモンスターとのご対面となるわけだ。
ギィィィ
門を開けると大きな広間へと繋がっている。そしてその部屋の中央にいるひときわ大きなモンスター、こいつがこの10階層のボスモンスターだ。
「ふう~」
一息深呼吸を入れる。
急がなければいけないのは分かっているが、俺も本当に久しぶりのボスモンスターとの戦闘だ。もちろん10階層程度ならば、今の俺の力なら楽勝だとは思う。それでも久しぶりのボスモンスターとの戦いの前では多少緊張する。
……よし、行くぞ!
「ゴオオオオオ!」
俺が大広間に一歩足を踏み入れると、大広間の中央にいた巨大なモンスターが大きな咆哮を上げた。
この階層のボスモンスターはコボルトキングだ。普通のコボルトは小柄で醜い顔をした獣のモンスターである。しかし、目の前にいるコボルトキングは5メートルくらいありそうな巨体で、その体躯に合わせた大きな鎧と槍を持っていた。
「……大宮ダンジョンはゴブリンキングだったな。少し懐かしい」
もうかなり昔のことになるが、俺が初めて挑んだのはゴブリンキングだった。同じ階層でもボスモンスターはダンジョンによって異なる。
ソロで挑んでいたこともあって、だいぶ苦労した覚えがある。基本的にボスモンスターはソロで挑むべき相手ではない。体力が多いし、タゲをひとりで取るよりも複数人で挑む方が楽に決まっている。
ボスモンスターのゲートは最大で4人までしか通れないので、基本的には最大人数の4人でパーティを組むのが基本だ。
「ゴオアア!」
コボルトキングが槍を構えながらこちらへ突進してくる。
おっと、懐かしがっている時間はない。さっさとこいつを倒して先に進まなければ!
ザンッ
「……さすがにこの階層のレベルなら、ボスモンスターであっても一撃で倒せるみたいだな」
コボルトキングが槍を持って突進してきたところをかわしながら、白牙一文字にて首を一刀両断した。俺の脚力ならば、たとえ5メートルほどの巨大な身長であっても、余裕で跳躍することができる。
コボルトキングの情報はダンジョンの階層を駆け抜けながら、リスナーのみんなからすでに聞いている。この横浜ダンジョンの最初のボスモンスターだけあって、毒や麻痺などの状態異常攻撃はなく、単純に槍を振り回して襲ってくるだけのモンスターだ。
とはいえ、その巨体と鎧はこの階層辺りのモンスターとは比べ物にならないほど厄介だ。本来ならば、リスクを避けて少しずつボスモンスターを削って弱らせていくのが定石となる。
なにせゲームのようにコンティニューがあるわけではない。リスクのある渾身の一撃を狙うよりも、リスクの少ない攻撃で相手を少しずつ削って消耗させてからとどめを刺す方法がより安全にボスモンスターを倒せるからだ。
「宝箱の中身は……小さな魔石か。まだこの辺りの階層だと、そこまでレアなマジックアイテムは出ないだろうな」
コボルトキングを倒すと部屋の中央に宝箱が出現して、次の11階層へ進む青色のゲートが現れた。
宝箱の中身の小さな魔石を回収してマジックポーチへ入れ、倒したコボルトキングはそのままにして、次の階層へ続くゲートへと進んだ。コボルトキングの素材を解体している時間はない。どちらにしろコボルトキングの素材は食用に向かないし、大した価値もないからな。
ボスモンスターを倒してこの階層から移動をすると、先ほどまで俺が通ったことによって閉ざされていたボスモンスターへのゲートが再び通れるようになり、先ほど倒したはずのコボルトキングとは別のコボルトキングが出現する。
……そういう仕組みはゲームそのものなんだよなあ。本当にダンジョンの仕組みがどうなっているのか不思議でしょうがない。
「ヒゲダルマさん、こちらです! 次の階層への方角はあちらになります」
「ありがとう、華奈。助かるぞ!」
11階層へと進むと、先ほどまでと同様にゲートの入り口で華奈が待ってくれていた。
「すごいですね……ボスモンスターがいても先ほどまでの階層の攻略時間とほとんど変わりません……」
「まだ、この辺りのボスモンスター相手なら問題なさそうだな。むしろ洞窟型の階層の方が時間は掛かりそうだ。それじゃあ次の階層でまた頼む」
華奈と別れて、草原の11階層を一気に駆ける。
この様子だと、おそらく30階層くらいのボスモンスターまでなら一撃で倒せそうだ。相手の防具や肌の硬さなんかにもよるだろうが、白牙一文字ならそれも問題なく切り裂けるに違いない。
むしろ洞窟型の階層の方が早く進めない分、時間が掛かってしまいそうだ。おそらくダンジョンの中で人が多いのは20階層までになる。深夜から早朝にかけてはダンジョンを探索している人も少ないので、できれば朝までに20階層まで超えておきたいところだ。