第69話 ボスモンスター
「うわっ、コボルトが3体も出て来たぞ!」
「まずい、後ろからもゴブリンが2体来ているな」
「くそ、これだから洞窟型の階層は厄介だ!」
「どうする、ゴブリンの方を倒して、通路からフロアの方へ移動するか?」
「いや、フロアの方に出てそこに別のモンスターがいたら本格的にまずい! なんとかこの狭い通路内で全部倒すぞ!」
「了解!」
「ったく、これだからダンジョンは面倒だぜ!」
ヒュンッ
「………………は?」
「……お、おい! いきなりコボルト3体の首が落ちたぞ!」
「今、何か通り過ぎた気がするぜ!」
「探索者なのか? 誰だか分からないけれど、とにかく助かった。残りのゴブリンを倒すぞ!」
「おう!」
「了解だ!」
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"次のフロアまで出たら、今度は右の通路だ。 @たんたんタヌキの金"
"右の通路へ曲がったら、そのまま2つフロアを直進してくれ。そこに次の階層へのゲートがあるぞ。 @ケチャラー"
「次のフロアまで出たら、右の通路でそのまま直進だな、了解!」
右の腕輪のデバイスに表示されているみんなのナビに従いながら、洞窟型の階層を駆け抜けていく。
途中の通路やフロアにいたモンスターや探索者たちは基本無視をしてきたが、こちらを追ってきそうなモンスターたちはすべて倒している。途中ダンジョンの通路でモンスターに挟まれた探索者がいたので、ほんの少しだけ助太刀をしてしまった。
あまり深くない階層だから問題ないとは思ったが、洞窟型の階層の通路で複数のモンスターに前後を挟まれると少しだけ面倒だからな。
素材はそのまま置いてきたから大丈夫だと思うが、あの状況でも経験値ドロボーとか言いながら、こちらを責めてくるようなヤバい探索者も極まれにいるのが現実なんだよなあ……
「しかし、この時間でも探索をしている探索者や配信者は結構いるのか……」
"まあ、ダンジョンの中だとあんまり時間とかは関係ないからな。 @XYZ"
"この階層だったら、兼業で探索者や配信をしている人も大勢いるんじゃないか? @†通りすがりのキャンパー†"
ダンジョンの中はこの洞窟型の階層の中のように基本的にはいつも明るく、深夜でもダンジョンを探索することは可能となる。そのため、本業の仕事の後に残業感覚でダンジョンに潜る人も少なくはない。
10階層くらいまでの低い階層であれば、危険はほとんどなく多少のお金を稼ぐことができる。
低い階層で出てくる宝箱であっても、そこそこ高値で買い取ってもらえるマジックアイテムや魔石なんかも出てくるし、配信がバズって収益化できれば夢もある業界なのである。その代わりに命の危険もあるわけだから、その辺りは自己責任だな。
「よし、ようやく7階層を抜けられたか」
みんなのナビにしたがって、ようやく洞窟型の階層を抜けられた。しかし他の階層の倍近く時間が掛かってしまったな。
「ヒゲさん、こっちだよ!」
「ああ、助かった!」
順調に横浜ダンジョンを攻略しつつ、10階層へと進んできた。そしてこの砂漠のような階層を一気に進んでやってきたゲートはこれまでの周りが青い色をしたゲートとは異なる赤い色をしている。
ダンジョンは10階層ごとにボスモンスターが出現する。ボスモンスターはそれまでの階層で出現するモンスターよりも強い場合が多く、それまでの階層でしっかりと準備を整えてから挑むのが基本となっている。
そしてもうひとつ他の階層を移動するゲートと異なっているのは、一度そのゲートを誰かがくぐってしまうと、その人たちがボスモンスターを倒すか、そこから撤退するまで他の人が入れなくなってしまうという点だ。
このボスモンスターのゲートをくぐると、撤退用のゲートがある部屋へと転移し、その部屋からつながっている大きな門を通ってボスモンスターが現れる大きな広間へと移動できる。
そしてその門をボスモンスターは通ることができないので、大広間からその大きな門をくぐればすぐに撤退できるというわけだ。ボスと戦う際は、この大きな門を背にしてすぐ撤退できるように戦闘を行うのが基本だな。
「横入りしてしまってすまない、譲ってくれて感謝する!」
赤いゲートの前には1組の探索者のパーティと瑠奈がいた。
ボスモンスターは大きくて体力のあるモンスターが多く、攻略には時間が掛かるものなので、前にボスモンスターへ挑む探索者がいるとかなりのタイムロスとなる。
そのため、華奈か瑠奈のどちらかに先にボスモンスターへの移動ゲートの前で待っていてもらい、誰かがボスモンスターへ挑もうとしたら、対価を渡すから先にいかせてほしいと交渉をするようにお願いをしてもらった。
この階層はまだ低い階層ということもあって、この時間帯でもボスに挑もうとする探索者がいたようだ。
「ヒゲダルマさんですよね! 配信見ています!」
「ダンジョン攻略のタイムアタックをしているんですよね、応援しています!」
「ツインズチャンネルの華奈さんと瑠奈さんにも実際に会えて本当に最高です! 遠慮なくどうぞ!」
譲ってくれた3人の男性冒険者はどうやら俺や瑠奈のことを知っているらしい。さすがに月面騎士さんの母親の命が懸かっているとは言えないので、ダンジョン攻略のタイムアタックをしていると説明をした方がいいとアドバイスをもらった。
実際のところ、タイムアタックのようなものだから、嘘をついているというわけでもない。
譲ってくれたお礼に小さい魔石や解毒ポーションなどのマジックアイテムを事前に華奈と瑠奈に渡していたから、うまく交渉できたようでなによりだ。3人に頭を下げつつ、ボスモンスターへのゲートを通った。




