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第47話 使用禁止マジックアイテム【瑠奈Side】


「知ったことかよ! もう俺には失うものは何もねえ、てめえらを確実に殺せればそれでいいんだよ! それに今の俺ならどんなにモンスターが来ても怖くねえぜ!」


「お姉……」


「ええ。もうこの人は正気じゃないわ……」


 虹野の様子がおかしい。目の焦点が定まっていないし、呂律が回っておらずに口元からは涎が出ている。


 すべてを失ったおかげで精神がおかしくなったのか、薬物でも使っているのかは分からないけれど、この人がもう正気じゃないことだけは間違いない。


「さあ、楽しもうじゃねえか!」


「……っ! 待ちなさい!」


 パキンッ


 お姉が虹野を制止する前に虹野がその手に持っていた誘引の蜜を地面に叩きつけた。そして割れた容器の中からは紫色の液体がすべて零れ落ち、周囲に甘い匂いが広がっていく。


「お姉、逃げよう!」


「ええ、今ならまだ間に合うわ!」


 虹野が使用禁止マジックアイテムの誘引の蜜を使ってしまった。すぐにこのフロアにはたくさんのモンスターたちが集まってくる。この階層のモンスターが大量に集まってきたら、僕とお姉じゃ対処しきれない!


 今すぐにこのフロアからできるだけ離れて、この階層から脱出しないと!


「……させると思っているのか?」


「えっ……きゃあ!」


「瑠奈!」


「だ、大丈夫……」


 このフロアから逃げようとしていた僕たちの元へ虹野が一瞬で距離を詰めて、持っていた刀を振るった。僕は瞬時に持っていたナイフで防いだけれど、その反動で後ろへ弾き飛ばされてしまった。


「ふん、腕を1本もらうつもりで刀を振ったんだが、まさかガードされるとはな。てめらもちっとは強くなってんじゃねえか?」


「……お姉、気を付けて! こいつ、前よりも全然速くなっているし、力も強くなってる!」


 虹野虹弥は元々最前線でダンジョンを攻略する配信者だった。ダンジョン配信というものが広がってから、すぐに配信を始めた最古参の配信者でありつつも、ダンジョンの最高到達階層を更新したこともある実力のある探索者で有名だった。


 だけど最近では最前線の攻略から退き、配信の方に力を入れるようになってきていた。コラボをした時には最高到達階層も私たちと同じくらいで、戦闘経験はともかく戦闘能力だけで言えば、僕とお姉と同じかそれよりも少し劣るくらいだったはずなのに……


「……っ!? まさか、その腕輪!」


「腕輪?」


 虹野の方を見てみると、刀を持った右手とは反対の左腕に黒い腕輪を身に付けていた。


 黒い腕輪……もしかして!


「さすがに知っているか? そう、こいつは『狂戦士の腕輪』だ!」


「そんな! それも使用禁止マジックアイテムじゃ!?」


「ええ。身に付けることによって通常よりも身体能力が向上するマジックアイテムよ……だけどあれには重大な副作用があって、精神に異常を発生させるから、すぐに使用禁止マジックアイテムになったわ」


 特徴的な真っ黒な腕輪、初めてそれが発見された時、身に付ければ身体能力が一気に向上する夢のようなマジックアイテムとして高値で取引された。だけど、身に付けていた者の精神がだんだんとおかしくなっていくことが判明して、すぐに使用禁止マジックアイテムに指定された。


 それであいつの様子がおかしかったんだ!


「ああ、こいつのおかげで俺は強くなった。だが、俺は精神に異常をきたしてなんかいねえ! 俺は俺の意思の力でこいつの副作用を克服したんだ!」


「「………………」」


 いや、全然克服できてないよ! もう自分がおかしくなっていることにも気付いていないんだ……


「そしてこの力でモンスターをぶっ殺しまくって、俺はさらに強くなった! たとえイレギュラーのベヒーモスが現れたところで、今の俺の敵じゃねえぜ! この階層のモンスターが集まってきたとしても全部ぶっ殺してやる! そうだ、そうすりゃまた俺は以前のトップ配信者に戻れるんだ! はっはっは!」


 もう虹野は完全に正気を失っている。もしも集まってきたモンスターを全部倒せたとしても、二度と配信者に戻れる道はないのに……


 でも確かにさっきの攻撃は本当に速くて力強かった。あの力でモンスターをいっぱい倒してさらに強くなったんだ。それにさっきの攻撃には殺意がこもっていた。いくら憎い僕たちが相手だからって、人を傷付けることになんの躊躇もなくなっている。


「どうした、あの会見に現れた男を呼ばねえのか?」


「……お姉!」


 ヒゲさんには何かあったら連絡してくれって言われている。だけどダンジョンでは何が起こるか分からないし、虹野はきっとヒゲさんも恨んでいる。こんな危険な状況で助けを求めるわけにはいかない。


「ええ。どちらにしても今から助けを求めても間に合わないわ。それよりも今は2人でこのフロアからなんとしても抜け出すわよ!」


「うん!」


「……ちっ、あの男だけはどこの誰だか分からなかったからな。まあいい、どうせあの男はついでだ。てめえらを切り刻んであいつが現れたらそれでいい」


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