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第46話 誘引の蜜【瑠奈Side】


「……ツインズチャンネルの華奈と瑠奈。久しぶりだなあ」


 目の前にいるのはかつてのトップダンジョン配信者であった虹野虹弥だ。以前にイレギュラーモンスターのベヒーモスが現れた時にお姉を見捨てて一人だけ逃げた挙句、その罪をお姉に擦り付けようとした最低の男。


 だけどヒゲさんのおかげでその悪事がバレた。ダンジョン法の緊急避難によって、仲間を見捨てて逃げたことは大きな罪にはならなかったけれど、探索者の資格を剥奪されて今はダンジョンに入れないはずだ。


「……みなさん、虹野虹弥がダンジョンの36階層にいると通報をお願いします」


 お姉が配信を見ているリスナーさんに通報をお願いしている。だけどここからゲートまでは少し遠いし、36階層にまで来ることができる人は限られているから、誰かが来るまでには時間が掛かってしまう。


 僕とお姉は自分の武器を構えて虹野へと向けている。虹野が自身の武器である日本刀のような刀をこちらに向けているからだ。


「へへっ、通報なんて勝手にしろよ。どうせもう誰もここには来られねえんだからな!」


 虹野のやつは以前とは別人のようだ。以前一緒に配信チャンネルでコラボをした時に比べると、全身の防具や服はボロボロで髪もボサボサ。焦点が合っていないその目には大きなクマがある。


 例の会見のことであちこちから責められていたようだし、精神的にも少しおかしくなっているのかもしれない。お姉をモンスターの囮にして自分だけ逃げた挙句、それをお姉に擦り付けるようなやつだから、同情の余地なんてこれっぽっちもないけど。


「目的はなに! 僕たちへ復讐しに来たの!」


「復讐……ああ、そうだ! お前らのせいで俺はすべてを失った。長年積み上げてきたダンジョン配信者としての名誉と人気、付き合っていた女たち、そのすべてをだ! しかもおまえらはそのおかげで名声を手に入れるだと! そんな理不尽を許せるわけないだろうが!!」


「……すべてあなたの自業自得です。確かにイレギュラーモンスターと遭遇してしまったことだけは理不尽ですが、私を囮にして逃げて、その罪を私に擦り付けて逃げようとしたあなた自身の責任です!」


「そうだ! お姉の言う通り全部自分のせいだよ!」


 こんなのは理不尽でもなんでもない。全部自分のせいじゃないか。


「うるせえ! どうして俺みたいなトップダンジョン配信者があんな目に遭わなきゃいけねえんだよ! 配信者の資格を失うのも死ぬのもたいして人気がねえおまえらみたいなやつでいいだろうが!」


「「………………」」


 意味の分からないことを大声で叫んでいる虹野。


 自分は人気のある配信者だから、何をしても許されるとでも思っているみたいだ。というよりも、もうこの人は正気じゃない。精神が壊れてしまったか、変な薬でもやっているのかもしれない。


「くっくっく、こいつが何か分かるか?」


 そう言いながら、虹野は左手でポケットの中から紫色の液体が入った半透明な容器を取り出した。


「……っ! まさか、それは!?」


 お姉にはあれが何か分かるらしい。


「……あなた正気? それを使う意味が本当に分かっているの!」


「ああ、もちろん分かっているさ。それにもう俺には失うものなんて何もないんだよ!」


「お姉、あれはなんなの?」


「あれは使用禁止マジックアイテムの『誘引の蜜』よ」


「えっ、あれが!」


 使用禁止マジックアイテム――ダンジョンで出現する宝箱からは様々な物が出現する。怪我を一瞬で治すポーション、不思議な力を持ったマジックアイテム、ダンジョンの外には存在しない高価な宝石、新たなエネルギーの代わりになったり武器に属性を付与できる希少な魔石などがある。


 だけどそのマジックアイテムの中には使用方法を誤るととても危険な物が存在する。それらはダンジョン法によって、使用禁止マジックアイテムとして定められている。


 もしも宝箱から使用禁止マジックアイテムが出た場合はすぐに廃棄しないと処罰の対象になってしまう。ダンジョン内で廃棄すれば、しばらくするとダンジョンに吸収される。使用禁止マジックアイテムは所持しているだけでも処罰の対象になるから、僕もすべて覚えている。


 誘引の蜜――中に入っている液体の香りは広範囲へ広がり、その階層にいるモンスターを集めるマジックアイテムだ。


 少しだけ使用をすればモンスターを罠のある場所におびき寄せたり、地形のよい場所で効率的に経験値稼ぎができるマジックアイテムになるけれど、集め過ぎたモンスターに殺される事故が多発したり、同じ階層にいる他の探索者を巻き込むとしてすぐ使用禁止マジックアイテムに定められたはずだ。


「上層ならともかく、こんな深い階層で……それも洞窟型の階層でそんなものを使うなんて自殺行為よ!」


 お姉の言う通り、この36階層は洞窟型の階層で、フロアと狭い通路に分かれている。どんな方向にも逃げられる広い草原や森の階層とは違って、この洞窟の今いるフロアには2つの通路しかない。


 こんな場所でそんなものを使ってしまえば、限られたたった2つの通路から大量のモンスターがこのフロアに集まってきて脱出は不可能になる。


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【コミカライズ連載中!】
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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 全く反省しないカスなこのレインボー野郎は論ずるに値しないとして、この犯罪者にきちんと首輪を付けてない協会も論外ですね。これはもう一回上層部を刷新しないとダメかな? …
[一言] ダンジョン協会終了のお知らせ
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