表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/182

第35話 透明腕輪


 目の前にいる男には俺が見えていない。これは俺が右腕に付けている腕輪の力だ。この腕輪はダンジョンの深い階層で出てくる宝箱から出てきたマジックアイテムのひとつである。


 これを腕にはめると、身に付けた者は透明になるというとんでもアイテムだ。俺は見たまんま『透明腕輪』と名付けた。こんなぶっ壊れアイテムがあれば、ダンジョン攻略なんて楽勝だろと思うかもしれないが、この腕輪は使用可能な時間がものすごく短い。


 合計で10分も身に付けていれば、この腕輪は壊れてしまう。そしてこの腕輪は他の者から透明に見えるようになるだけで、足音や臭い、地面に付いた足跡なんかはそのまま残る。


 深い階層で出てくるモンスターはこの腕輪を使って近付いても一瞬で気付かれてしまうので、ほとんど意味のないマジックアイテムであったが、ダンジョンの外であれば、その効果は非常に凶悪だ。


「ぎゃああああああ!」


 俺が見えていない立てこもり犯の股間を思い切り蹴り上げた。男は悶絶してその場に倒れ込む。そしてそのまま次の立てこもり犯の元へ一直線に走る。


 金的――男の弱点としては有名だが、普通に蹴られたくらいではここまで悶絶するほどの威力にはならない。


 だが、ダンジョン内で常にモンスターと命のやり取りをしている俺には、どんな悪人であっても多少は躊躇してしまうような本気の蹴りを、一切の躊躇なく全力で男性の急所である睾丸へと叩き込むことができた。


 もちろんここはダンジョンの外であるため、今の俺にはダンジョンの中で得られる超人的な力はないが、幾多のモンスターとの戦闘経験もあり、敵の急所を正確に攻撃することができる。


 今履いている靴は硬いし、すぐに起き上がれるような痛みではない。もし睾丸が破裂すればショック死する可能性すらあるといえば、その痛みが想像を超えたものであることは分かるだろう。


 周りに人質や負傷した店員さんがいるから大規模なマジックアイテムは使えず、立てこもり犯たちを1人ずつ拘束している時間もないから、こうするのが一番手っ取り早い。


「何なんだよ、何が起きていやがるんだよ!」


「分からねえが、目には見えない野郎がいやがるな! おい、下半身への攻撃に気を付け――」


「ぎゃああああああ!」


 さすがに3人目の立てこもり犯を倒したところで、向こうもこちらが持っているマジックアイテムの効果に気付いたらしいが、ギリギリで4人目の股間を蹴り上げた。これで残りは2人だが、あとの2人は離れた場所にいる。


 今俺の存在に気付いた剣を持っている男がこの立てこもり犯のリーダーか? あとはあいつを……


「う、動くなあああ!」


「ひいいい!」


 もうひとりの立てこもり犯が近くにいた人質と思われるおっさんを盾にして、ナイフを首元に当てた。


 ……くそっ、こうなることは分かっていたから、作戦を立てて一気に立てこもり犯を制圧したかったんだ。


 先ほどリスナーさんや華奈と瑠奈の案内に従って、六本木モールのこの店まで辿り着いたはいいが、状況を把握する前に手を出してしまった。


 本来なら、俺が透明腕輪で姿を隠して敵や人質の現状を把握しつつ、一度引いてリスナーさんたちと作戦を立てるつもりだった。


 必要があれば、結局ここまでついてきてくれた華奈と瑠奈の手を借りて、立てこもり犯を一網打尽にするつもりだったのだが計画が完全に狂ったな。


 店の中に入って現状を確認していると、金髪の男が女の子にいきなり襲い掛かろうとしたから、つい手が出てしまった。正直なところ、この店の中にいるタヌ金さんだけを救い出せればそれだけでよかったんだが、俺にもまだ人らしい感情が少しは残っていたらしい。


「でかしたぞ! よし、そのまま動くなよ」


 真っ先に俺の存在に気付いた赤い剣を持ったリーダと思われる男が、金的を警戒しながらおっさんを人質に取ったもうひとりの男の方へ合流した。


「リ、リーダー。何がどうなっているんだ……?」


「……おそらくだが、透明になれるマジックアイテムを持った野郎がいる。そんなマジックアイテムは見たことも聞いたこともないが、たぶんさっき話していた特殊部隊だろう」


 特殊部隊か、今はそんな部隊もいるのか。しかしまずい。


 普段の書き込みから考えて、あのおっさんがタヌ金さんである確率はかなり高い。せめてどの人質がタヌ金さんなのかを確認してから仕掛けたかった。


「おい、そこにいるやつ! 今すぐに姿を現せ、さもないとこの男の喉を切り裂くぞ!」


「ひいい、助けてくれ!」


 ……くそっ、あの人がタヌ金さんでないと分かれば、賭けで透明なまま突っ込むのだが、あの人がタヌ金さんの可能性が高い以上、そんな危険を冒すことはできない。


「……分かった。その人には手を出すなよ」


「うおっ、何もないところから声が!?」


「やはり、透明になるマジックアイテムか!」


 俺は立てこもり犯の言う通りに透明腕輪を外して、その姿を見せた。


「お、男がいきなり現れやがった!?」


「……どこかで見た顔だな。て、てめえは最近虹野の会見で話題になっていた処刑人じゃねえか!?」


 どうやらリーダーの男は俺のことを知っているらしい。偵察のつもりだったから今の俺はマスクや帽子はしていない。というか、その呼び方はなんだ……?


「そうか、ダンジョンの奥まで攻略をしていたというのは本当だったんだな。それでこんないかれたマジックアイテムを持っていやがったのか!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【コミカライズ連載中!】
(画像クリックで作品ページへ飛びます)

2dw35xypkzhv3gl2hg7q35cee9fn_xk1_p0_b4_54rp.jpg


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ